『大統領の執事の涙』を堪能
リー・ダニエルズという監督は、今年『ペーパーボーイ 真夏の引力』でそのヤバい魅力にやられたので、1月公開の『大統領の執事の涙』を期待して見に行った。冒頭、クラシック音楽とともにずいぶんオーソドックスに始まるので、あれっと思った。
物語は、フォレスト・ウィテカー演じる老いた主人公が自分の半生を語るナレーションで進む。少年時代に綿花畑で働いていて、横暴な領主に父親を殺される。それから家の召使になり、そこを抜け出してホテルのボーイに。
そこまではあまりに普通の伝記のように話が進むので、本当にこの監督の作品かと思った。ホテルでの仕事が認められて大統領府の執事になるあたりから、ちょっとヘンな感じが出てくる。
ケネディ大統領は本当にお気楽なボンボンに見えるし、ジョンソンに至っては使わない部屋の電気を消して回るような倹約家、ジョン・キューザック演じるニクソンの苦悩の表情も滑稽だ。
途中からは息子たちの描写が増えて、重層化してゆく。長男が大学に行って公民権運動に熱中する様子を、父親が大統領の晩餐会を準備し、給仕するシーンと交互に見せる切れ味は見事。父や権力に仕え、息子は権力に歯向かうが、見ている側はどちらも支持したくなってしまう。
夫が仕事を優先しすぎて、妻役のオプラ・ウィンフリーがアル中になったり、彼女の友人たちもとんでもない面々がいたりするのもいい。それでも夫婦仲はいいし、次男がベトナム戦争で死んだ時には、「何のための戦争か」と怒る。
主人公は、ケネディの公民権法案提出や、ジョンソンの公民権法成立、ニクソンのベトナム戦争終結、レーガンのアパルトヘイト支持などが決定する瞬間をまじかに見ながら、もちろん意見は言わない。時おり大統領に話しかけられるだけだ。しかし彼の存在が大統領に微妙な影響を与えている感じも、よく描かれている。
最後はオバマ大統領の誕生万歳で終わって、オーソドックスな伝記風に戻るが、そこに至るまでの描き方はこの監督ならではの屈折した描写が満載で、十分に堪能した。アメリカでは相当のヒットらしいが、まさにアカデミー賞向きの作品だろう。
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