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2014年1月21日 (火)

ペコロスの原作漫画を読む

映画『ペコロスの母に会いに行く』が、「キネマ旬報」でも「映画芸術」でも一位だという。この2誌は違った意味で時代遅れの雑誌だと思うが、その2つがベタ褒めというのは珍しい。というより、この映画がベストテンに選ばれること自体が、特異なことだと思う。

実は私もWEBRONZAで今年のベスト5を書く時に、つい5位に入れてしまった。その時の心境は、誰もベストテンには選ばないだろうが、自分の心には突き刺さったからというものだった。

ほかのベストテンに選ばれるような映画と違って、演出上の完成度が高い(例えば『舟を編む』や『凶悪』)わけでも、新しい映画表現を見せてくれた(例えば『かぐや姫の物語』や『フラッシュバックメモリーズ3D』)わけでもない。どちらかといえば、古くさい人情ドラマを昔ながらの演出で見せる。

それがなぜダントツにウケたのか。理由はいくつか思い当たる。一番は、最近見ていない、かつての大船調のメロドラマを見せてくれたことだろう。笑って泣いて考えて、ああおもしろかったという、昔の日本映画を見た気分になったのではないか。

その次には、やはり介護というテーマが大きいか。これは最近みんなが当事者になりつつあるので、誰もが身につまされる。ボケると過去と現在が自由に入り混じるが、これが映画的表現に自然に結びついているのは、ベテラン監督の技だろう。

そのほかにはどんな理由があるのだろうか。そう思いながら、原作の岡野雄一氏の漫画を読んでみた(病気療養中で暇なので)。そこで感じたのは、主人公のペコロスの故郷への思いや、父母への想像力だった。

母が小さい頃や父母が出会った頃はどうだったのだろうか。大酒飲みの父親は、心の中で何を考えていたのだろうか。東京で20年暮らして故郷の長崎に帰り、ボケてゆく母を心配しながら仕事に出るペコロスは、毎日そんなことを考える。

私自身は東京に暮らして30年近くになる。時々実家には帰るが、両親のことを考えることは少ない。この漫画を読むと、その欠落が身に沁みる。そしてノスタルジアが、突如広がってゆく。

この映画がファンや批評家の心をとらえたのは、そうしたノスタルジアもあるかもしれない。

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