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2014年1月30日 (木)

そしてオリベイラは続く

また90分前後の傑作を見た。2月15日公開のマノエル・デ・オリベイラ監督『家族の灯り』で91分。去年の12月で105歳というから、まだ映画を作っているだけで奇跡のようなものだ。

映画自体も奇跡のように若々しい。妥協知らずというか。物語は、老夫婦のもとに8年前に姿を消した息子が帰って来るというもの。老夫婦は、息子の妻や近所の友人たちと共に暖かく迎えようとするが、息子はそれを裏切るような行為に出る。

聖書の「放蕩息子の帰還」のバリエーションのような話だが、もっと救いがない。まず老父は必ずしも妻とうまくいっていない。むしろ息子の嫁を気に入っているが、妻はそれが気に入らない。帰ってきた息子は、帽子も取らずに、父親を見るなり馬鹿にしたように大きな声を挙げて笑う。そして息子は妻が止めるのも聞かず、とんでもないことをしでかす。

映画はほとんどが室内を写す。カメラを据えたままで、テーブルに座る2人や3人を正面から撮る。何の工夫もない。会話は暗い話ばかり。友人の男女が遊びに来たのが、かすかな救いか。

とんでもない映画だ。人間存在の深淵を覗いたようで、暗澹たる気分になる。芥川龍之介の短編を読んだような感じか。105歳にしてこんな怖い映画を撮るなんて。

老夫婦はマイケル・ロンズデールとクラウディア・カルディナーレ、女友達はジャンヌ・モローの豪華キャスト。これにオリヴェイラ組が加わる。もう一人の友人はルイス・ミゲル・シントラ、息子はリカルド・トレパ、その妻はレオノール・シルヴェイラ。

カルディナーレのイタリア的なキンキンしたフランス語や、息子のポルトガル訛りの強いフランス語が、コミュニケーションの不可能性をさらに際立たせる。息子の能天気な話しぶりを見ていると、もう絶望的になる。

2003年の小津安二郎生誕百年の時に、最後の来日をしたオリヴェイラ夫妻のことを思い出した。オリベイラは当時95歳で、小津より5つ若いだけだ。20歳下の奥さんは買物が大好きで、連れてきた彫刻家という息子は観光のことばかり考えていた。どうしてもイメージが重なってしまう。

小津の生まれた日の翌日がオリベイラの誕生日で、シンポジウムの打ち上げの時に、誕生日のお祝いとして花束を渡した。翌日、参加者達と北鎌倉の小津の墓に行った時、彼は大事そうにその花束を持ってきて墓に捧げた。

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