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2014年1月10日 (金)

小津と戦争について考える本

3年ほど前に出ていた、与那覇潤著『帝国の残影 兵士・小津安二郎の昭和史』を読んだ。去年末から小津生誕110年・没後50年ということで、ここで触れたようにユリイカやBRUTUSの特集を読んだので、もっと小津について読みたくなった。

この本のおもしろいところは、小津映画の魅力の分析ではなく、見えない形で現れる戦争のモチーフを読み込んでいる点だ。作者の専門は映画ではなく日本近現代史であり、小津の映画を歴史資料として日本の近代を語る本だ。

いわゆる「小津調」というのは、家族や友人が集まって娘の結婚をめぐってたわいない会話を続けるというもの。吉田喜重が書いているように、小津の映画には兵士が1人も出てこない。戦争の描写がない。ところが「戦中・戦後に小津安二郎が発表した全17作品の家族映画は、子供を主演としたナンセンス・コメディである『お早よう』一作のみを例外としてすべてに何らかの形で、登場する「家族」と「戦争」のつながりが仄めかされているのだ」

小津は兵士として中国に出兵した。その影が強く出てくるのが、いわゆる傑作と見なされていない作品群らしい。つまり『宗方姉妹』、『お茶漬けの味』、『早春』、『東京暮色』などのことで、『晩春』や『麦秋』、『東京物語』などの有名作品と交互に作られている。

この本にはいくつかの興味深い表がある。戦中・戦後作品における「戦争」ないし「植民地」への言及の一覧がそうだし、戦後作品における「中国的」要素一覧がそうだ。「中国的」といっても直接的な大陸への言及ばかりでなく、麻雀、中華屋、そして関西圏の舞台まで含む。確かに小津の映画にはやたらに麻雀やラーメン屋が出てくる。

そして著者は小津の世界観を丸山眞男や竹内好と比べる。それは「近代化」よりも「中国化」に期待し、戦前の封建的体制からの解放を目指すものだ。それなのに、その後の佐藤忠男やドナルド・リチーらの解釈は、小津を「日本回帰」の象徴としてとらえた。

著者が小津映画に見える失敗した「中国化」について語る時、その姿勢は奇妙なことに白井聡の『永続敗戦論』と重なってくる。考えてみたら、同じ世代だ。

この本を読んですぐに『東京暮色』を再見した。するとその暗さのすべてが中国大陸に源を発しているのがよくわかった。この映画については、後日きちんと触れたい。

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