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2014年1月 3日 (金)

『映画宣伝ミラクルワールド』の知らない世界

私が映画好きになったのは、小学生高学年から中学生にかけて、つまり1970年代のことだ。その頃の映画宣伝を描く斎藤守彦著『映画宣伝ミラクルワールド』を見つけて思わず買った。副題は「東和・ヘラルド・松竹富士 独立系配給会社黄金時代」。

この3社は、今はないと言っていい。東和は東宝東和として生き延びているが、東宝が完全子会社にしてユニバーサルの配給委託が主な仕事になったし、ヘラルドは角川に吸収され、松竹富士は松竹本社に吸収された。

1980年頃大学生になった私は、映画興行と言うと、どうしてもその後のミニシアター全盛期の鮮明な記憶がある。ユーロスペースで1時間待って『ゆきゆきて神軍』を見たとか、日比谷シャンテで並んで『ベルリン天使の詩』を見たとか。だからその前の話は興味深い。

この本は当時の宣伝マンに聞く形で1970年代後半から80年代の3社のすさまじい宣伝合戦を描いたものだ。始まりは、1976年12月の『キングコング』VS『カサンドラ・クロス』。前者が東和、後者がヘラルドだが、私は中学生の時、福岡で『カサンドラ・クロス』を見た。2本立てだった記憶があるが、この本を読むと、東京・大阪以外では『ラスト・コンサート』と2本立てだったことがわかる。

東和は『キングコング』の宣伝に、これまでで最高の3億6000万円を投下したという。コピーは「これぞ全世界が夢見た映画の中の映画だ」「キングコングこそ永遠のロマン」。『カサンドラ・クロス』は「はじめて心を持ったパニック映画が誕生!」

初日は有楽座では「キングコングガールズ」が映画館前に並び、日比谷映画では『カサンドラ・クロス』に登場する白い防疫服を着た男たちが機関銃を持って観客を迎えたという。今はそんなバカバカしいことはしないだろう。結果は『キングコング』の配収が30億7000万円、『カサンドラ・クロス』が15億3000万円という。ちなみに今は「興収」で発表するが「配収」はその約半分。

なぜ中学生の私が『キングコング』を選ばずに、『カサンドラ・クロス』を見たのかは記憶にない。たぶん前年の『ジョーズ』で、ああいうパニック映画とは卒業しようと思った気がする。当時、小説を読み始めて文学少年気取りだったのかも。

この本は、『サスぺリア』『死亡遊戯』『ナイル殺人事件』『地獄の黙示録』『Mr.Boo』『エレファント・マン』『キャノンボール』『ブッシュマン』『ランボー』などが続く。私は高校生から大学生になっているが、このあたりはほとんど見ていない。

おもしろかった挿話はいくつもあるが、1981年にミニシアターの草分け「シネマスクエエアとうきゅう」に使われたフランス製の高級な椅子は、1975年にヘラルドが『エマニエル夫人』で配収17億円を稼いで改装したヘラルド内試写室の椅子と同じものという話などは知らなかった。ミニシアターの象徴だった椅子が、「エマニエル」から来たとは。

こうした配給や興行の歴史は、誰かが残さないと映画史からなくなってしまう。そろそろ、今はなくなった個々の映画会社の歴史も書いておかないといけないのだが。

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