米国版で見る成瀬の無声映画
金曜にインフルエンザと診断されて薬を飲み始め、土曜にはかなり落ち着き、日曜には完全に普通に戻った(気分)。さて映画でも行こうかと思ったが、感染を考えると火曜までは外出できない。そこで手元にある未見のDVDを見た。
米国クライテリオン社から発売されている「SILENT NARUSE」は、松竹蒲田時代の成瀬巳喜男の無声作品5本を収録したもので、実は日本では発売されてない。
『腰弁頑張れ』(31)、『生さぬ仲』(32)、『君と別れて』(33)、『夜ごとの夢』(33)、『限りなき舗道』(34)で、20年以上前にフィルムセンターで見て以来だが、これが予想を遥かに上回るおもしろさだった。
音楽も入れていないので、少し退屈するかと思ったが、そんな暇はない。画面のリズムやユーモア、そしてドラマチックな構成にぐいぐい引き入れられる。
どれも傑作だが、今回一番気に入ったのは『君と別れて』。とりわけ、芸者を演じる17歳の水久保澄子に憑りつかれてしまった。
物語は、場末で芸者をしている菊江(吉川満子)と中学生の息子(磯野秋雄)に、息子と仲のいい菊江の若い同僚の照ちゃん(水久保)の間で進む。息子は母の仕事を嫌って、不良仲間と付き合うが、照ちゃんはそれを何とかやめさせようとするうちに騒動に巻き込まれるというもの。
まず、菊江を迎えに来た照ちゃんが、白髪を取ってあげるシーンにぞくぞくした。斜めになった大きな鏡に女性2人が構えて、「えいっ」と引き抜く。抜けた白髪2本をそっと鏡に張り付ける菊江。その顔と髪の毛が鏡と光の中で織り成す画面にくらくらした。
あるいは、照ちゃんが息子を実家に連れてゆく場面のリアルさ。照ちゃんが父親に逆らう時のズーッと寄ってゆくアップ。その後の海岸での照ちゃんと息子の夢のような会話。
そして不良仲間との悶着を経て、最後の駅での別れにつながる。「もっとお金を稼げるところへ行く」照ちゃんはどこへ行ったのだろうか。品川から電車に乗ったから、関西か、あるいは大陸か。この女優の、その後の謎の人生を思わせる。
自己犠牲的だが自分の意志を貫く2人の女性を描くという点では、戦後の成瀬につながるが、映像の華やかさは何倍も見ごたえがある。
なぜ松竹は米国に権利を売りながら、日本で販売しないのか。調べてみたら日本のアマゾンでも4000円強でこの米国版が買えるが、海外用のデッキが必要になる。これも5000円もあれば買えるが。
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