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2014年1月26日 (日)

不思議なグレミヨン

ジャン・グレミヨンという監督は、昔から不思議な存在だった。世代的にはルノワールやルネ・クレールらの巨匠達より少し後だが、日本で知られた作品は少ない。昔から日仏学院では、『この空は私のもの』(43)や『高原の情熱』(44)が上映されてはいたが。

学生時代にパリでサイレント作品『マルドーヌ』(28)や『燈台守』(29)を見てみると、これがとんでもなく前衛的で驚いた。さらに最初のトーキー『父帰らず』(30)の殺しの場面のリアルさに震えが来た。最近日仏で見た中編『ダイナ』(32)は、再び前衛的な画面に戻っていた。

今回、東京日仏学院で『不思議なヴィクトル氏』(38)を見た。これはずっと前にパリで見たはずだが、寝てしまった記憶がある。今回見てその理由がわかった。一見、何を言いたい映画かさっぱりわからないからだ。

主人公のヴィクトールは雑貨屋の主人(レイミュ)だが、実は盗賊団とつながって商品を横流ししていた。ある時盗賊団の親分(ジョルジュ・フラマン)に金をせびられて殺してしまう。そうして容疑は靴屋(ピエール・ブランシャール)にかかる。これから警察の捜査が始まるかと思ったら、刑務所が写って、靴屋が服役している場面が出る。

次に「7年後」というクレジットが出たかと思うと、脱獄した靴屋が大雨の仲、雑貨屋の自宅の前に立っているシーン。靴屋を大事にするヴィクトールの不思議な行動。彼の妻(マドレーヌ・ルノー)は夫を愛していないが、なぜか
靴屋に惹かれる。靴屋もそれに気づく。

セットがほとんどだし、撮影もこれまでの彼の映画に比べたら極めて普通。ところが、レイミュとジョルジュ・フラマンが陰謀を話し合うシーンや、レイミュがピエール・ブランシャールに親切にする場面、妻がブランシャールに惹かれるシーンなどに、異様な雰囲気が盛り上がる。これは一体どこから来るのか。

そうして脱走した靴屋に警察の手が迫り、真実が露呈されてゆくが、そのサスペンスのなさといったら。そこにはむしろ「もう、どうなってもいい」と言いたげな、厭世的な世界観が広がってゆく。

傑作ではないし、何を言いたいのかわからないが、魅力に溢れている不思議な映画だった。学期末の学生達の課題や卒論を読むのに飽きた私には、日仏学院は歩いて行けるし、実にいい気分転換になった。

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