入試の合間の読書:『「かわいい」論』
先週は一般入試一期、今週は修士の入試、来週は博士の入試と続くが、その合間はなぜか読書が進む。最近読んだのは、四方田犬彦著『「かわいい」論』。これもずいぶん前に買って、本棚に眠っていた本だ。
著者の四方田氏は、映画と文学を中心に何でも書く。漫画でも料理でも。どれを読んでも読みごたえがあるから、当代一のマルチ評論家かもしれない。最近は明治学院大の教授を自ら辞して、著作に専念しているらしい。
『「かわいい」論』は、8年前に出た新書本。四方田氏は、イタリア、中国、韓国、セルビアなどに住んでいる時、『セーラームーン』に代表される日本のアニメが「かわいい」という言葉で若者の人気を博していることに気づく。これは何だろうと考えたのがこの本。
まずは日本語の「かわいい」の起源にせまる。文語の「かはゆし」が語源で、さらに「かほはゆし」に行きつくらしい。「かほ」は顔、「はゆし」は映えるで、「直訳するならば、顔が以前にも増して明確に引き立ったり、興奮のあまり赤く色づいてしまうことを示す」。
「かはゆし」が最初に文献に出るのは12世紀の『今昔物語集』。そこでの意味は「痛ましくて見るに忍びない。気の毒だ」だったようだ。それがだんだん「愛らしい。子供っぽい」になる。それ以前はむしろ「うつくし」が「かわいい」に近い意味で使われていたらしい。11世紀初頭の清少納言の『枕草紙』の「うつくしきもの 瓜にかきたるちごの顔」の類である。
英語だとcuteかpretty、イタリア語だとcaro。そのほかクロアチア語とかヘブライ語、中国語、韓国語の例が出ている。ところがフランス語にはなく、「フランス文化のなかに「かわいい」神話が美学的イデオロギーとして定立されてこなかったことを物語っている」。そうかな。
それから先は大学生の「かわいい」をめぐるアンケート結果があったり、「かわいい」とグロテスクを比べたり、「小ささ」や「なつかしさ」との結びつきを比較したり。
おもしろかったのは、「かわいい」とヘンリーダーガーの絵の比較。この奇怪な少女幻想の絵の数々は、確かに『セーラー・ムーン』に近いかもしれない。
この本は四方田氏のほかの本に比べると刺激が少ないなと思ったが、こう書いたところでスマホを見ると、彼から「友達申請」が届いていて、驚いた。慌てて「友達になる」を押したが、やはり何か怖い。
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