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2014年2月16日 (日)

『秋刀魚の味』の残酷さ

フィルムセンターで、デジタル修復版『秋刀魚の味』を35ミリプリントで見た。もちろんブルーレイで見ることも可能だが、ちょうど時間があいたこともあって、スクリーンで見ようと急に思い立った。プリント上映にも惹かれた。

本編の前に、修復のデモ映像が流れた。残存プリントの画面の揺れやキズなどをいかに修復したかを、くどいくらい見せてくれたが、一番驚いたのは冒頭のクレジットの色彩の違いだった。

小津はある時期からクレジットの背景を麻布地にしているが、この作品は絵が描かれている。それが青、赤、緑などからなるあざやかな6色のものだとは、全く知らなかった。昔見た印象は、とにかくすべて赤茶けていて、全く区別はつかなかった。

今回見た『秋刀魚の味』の驚きはそれだけでなかった。この映画がこれほど精神的に残酷な場面に満ちているとは、考えたことがなかった。とりわけ女たちは、言いたい放題だし、その分自分たちも追いつめられる。

岡田茉莉子と佐田啓二の若夫婦が最初に出てくる時の、岡田のつっけんどんな態度といったら。岡田は1人でぶどうを食べ、佐田は欠伸をする。次に2人が出てくるシーンでは、岡田はゴルフクラブを買おうとする佐田を苛める。「早く自分で好きなもの買えるような身分になりなさいよ」。佐田の暗澹たる顔。

あるいは笠智衆と中村伸郎が老いた恩師役の東野英二郎を自宅まで送って、そこに現れる東野の娘(杉村春子)のやつれた様子の哀れなこと。そして酔った父を見て泣く。そのうえ、後日お金を持って再訪する笠に対して、杉村は「どうせお口に合うようなものはありませんけど」と意地悪に言う。

一番残酷なのは、好きな人に既に婚約者がいると父親役の笠から告げられる岩下志麻。彼女が目を落として「それならいいの」「(別の縁談を進めるよう)おまかせします」という時の声。そして笠が二階に行った時の彼女の顔や巻尺を触る動作。

岩下の結婚相手は画面に出ない。不本意な相手だから、写すこともできないのだろう。そうして結婚式の後の笠の本当に悲しそうな表情。これに例の軍艦マーチを組み合わせるから、何ともむごい。嫌な戦争の記憶と、孤独が一挙に結びつく。

1991年の東京国際映画祭のクロージングで、蓮實重彦氏にフランスのジャン・ドゥーシェ氏を紹介し、一緒に夕食を共にしたことがある。2人が小津の残酷さについて長々と語り合っていたことを、今頃になって急に思い出した。

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