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2014年3月 4日 (火)

笠智衆が悪役?

フィルムセンターで見た佐々木康監督『風の女王』(38)は、何よりも悪役の笠智衆が見ものだった。三瀬という役で福井(佐野周二)と同じ化粧品会社に勤めているが、社内の多恵子(森川まさみ)を恋人としながら、その友人の由起子(三宅邦子)にも迫る。さらに由起子の妹布江(高杉早苗)にも手を伸ばす。

いつもの人の良さそうな笠智衆ではなく、無理にとぼけてニヒルに笑う悪者の感じがあまりうまくいっていない。相変わらず九州弁のアクセントが強いし。

それに対抗するのが専務役の佐野周二のはずだが、病気で寝たきりの妻がいるのに、三宅邦子に好きだといったり、どうも怪しい。そのうえ三宅の妹役の高杉早苗に気に入られて、最後は旅館に行って関係を持ってしまい、三宅に軽蔑される。これはまさかと思った。

三宅もまた悪者の笠智衆に惹かれたり、人を見る目がない。そのうえ最後はパリ行きが決まると喜んで行ってしまうし。ラストでは、佐野周二はどこかに行ってしまって出てこない。

あれやこれやで野田高梧の脚本に難があると思うが、それでも昭和初期のモダンな都会風俗を十分楽しめる。冒頭は三宅と森川のスキー場のシーン。布江はピアニストを目指していて、石坂洋二郎の『若い人』を読んでいる。佐野が三宅を呼び出すのは丸の内のカフェ「アリゾナ」で、布江はスケート場に佐野を誘う。

佐野はいつも運転手つきの車だし、三宅もどんどんタクシーに乗る。布江が家を飛び出して行くのはホテルで、その後に見つけるアパートも含めて佐野に払わせる。誰もお金に困っていない感じ。

ホテルの階段を佐野と三宅がゆっくり降りるシーンや、後悔する佐野が海に佇むシーン、最後の大きな船が出るシーンなど、それなりに映画らしい場面も多い。

映画らしい場面と言えば、同じ野田が脚本を書いた『男の償い』は、冒頭に本物の駅や列車が出てくるところから始まって、ロケがいい感じに生きていた。熱海や伊豆と東京を結ぶ列車や車がいいタイミングで挟まっていて、テンポがいい。佐分利信が婿入りする先を熱海にしたことが、この映画の大きな成功だろう。

田中絹代が無断で金庫から金を盗み出すシーンのクロースアップなども、迫力満点。コテコテのメロドラマだが、こちらの方が脚本も演出もいい。ところで野田高梧は生涯何本の脚本を書いたのだろうか。

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