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2014年3月14日 (金)

戦前の上原謙を楽しむ

フィルムセンターの「松竹無名映画特集」(私の命名)も今週までとなり、時間さえあれば通っている。今回見たのは上原謙が出てくる『男の意気』(42、中村登)と『むすめ』(43、大庭秀雄)だが、彼が眩いほど輝いていた。

中村登も大庭秀雄も戦後の活躍が有名だが、彼らが30歳前後に作ったこの2本は、知られざる秀作だった。上映時間は78分、77分と短いが、どちらもきらめくような映像感覚が光る。そのうえ、戦時中なのにその色は限りなく薄い。

『男の意気』は、回漕問屋・丸久の跡継ぎ息子のケンジ(上原謙)が休暇で北京から帰ってきて、3カ月のうちに家族の問題をすべて解決して去ってゆくという話。彼が白い上下の背広で現れた時のカッコよさといったら。

実家では父親(坂本武)が昔ながらの商売を続けており、上原の妹(朝霧鏡子)を取引先・丸菱の息子に嫁がせようとしているが、彼女には好きな人がいた。姉(水戸光子)は使用人の良吉(徳大寺伸)と結婚して勘当されている。

上原は妹の見合いの日に丸菱の父親に直談判して破談に成功する。そのうえ、後日その父親に会って、商売敵の山岩に決まっていた取引を強引に奪い取り、そこに徳大寺を働かせる。丸菱と契約済みの徳大寺は邪魔されるが、何とか切り抜けて、坂本に勘当を解かれる。

さらに上原は同業者の集まりに出て、この港の同業者は一社にまとまるべきだという父と全く逆の意見を滔々と述べて、全体をまとめてしまう。もちろんここは唯一国策映画的な部分だが。

上原は、妹を好きな人と結婚させ、姉夫婦と父を和解させ、父の商売を時代に合った方向に変えてしまい、そして去ってゆくという、スーパーマンのような役割だ。

感動的なはずのシーンを極力抑えた演出がいい。仕事に駆けつけた徳大寺と上原が手を握った後は、それぞれが舟に乗ったカットバックだけ。ラストの上原の出発前に、店で働く千代(木暮美千代)が差し出すお守り。それから遠くに見える上原を小さく写し、2階の父親の顔を見せるだけだ。

背が高くすべてに前向きな上原が気持ちがいいし、日本橋に近い問屋街の情緒も、「親方」と呼ばれる木暮美千代のイキな感じも、見合いの仲人をしようとした叔父(河村黎吉)の最後のものわかりの良さも、すべてが心地よい。『むすめ』については後日。

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