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2014年3月 7日 (金)

戦前の邦画は凡作でもおもしろい

またフィルムセンターで戦前の松竹映画を2本見た。蛭川伊勢夫監督『君よ共に歌はん』(41)と原研吉監督『水兵さん』(44)。1本は松竹歌劇団を使った歌謡映画だし、もう1本は海軍省後援の国策映画で、共に平凡な出来だったが、それでもいろいろな意味でおもしろかった。

実は蛭川伊勢夫という監督は、名前も知らなかった。物語は、ある楽団に三宅邦子演じる郁子が加わって、波乱を起こすというもの。郁子は音楽学校時代に中代(三原純)と恋仲だったが別れていたが、船の中で再会し、中代の楽団に歌手として加わる。中代には許嫁のみつ子(朝霧響子)がいた。

郁子は満州の新京から帰ってきた父親のためにお金が必要になり、中代は興行師から金を借りて楽団は危機に。一方、みつ子は中代を奪われそうになって気が気ではない。最後は郁子が興行師と共に列車で去ってゆく。

またまた女の不幸を中心にしたメロドラマだし、後半の20分の「芸能大会」は退屈だが、それでも興味深いのは、「大陸」の表象だ。三宅邦子の父は、いかにも満州で一旗揚げようとしている危ない男に見える。今回の特集で似たような男を見たと思ったら、『男の償い』の佐分利信の兄役の河村黎吉だった。あるいは『東京音頭』でも、満州で事業を起こして成功した父親が、世話になった人の娘を嫁として連れてくるという話があった。

1931年の満州事変以降の邦画には、実は「大陸」が頻出するのではないか。後半の「芸能大会」も、インド風の踊りや中国風の歌があったし(ほとんど正面からの工夫のない撮影)。あるいは冒頭で三宅がかつての恋人と再会する神戸に向かう客船は、「大陸」からのものではないか。最後に三宅が函館行きの電車に乗るのは、ひょっとして樺太に行くのではないか。

『水兵さん』は「海軍への志願を奨励する国策映画」とチラシに書かれているが、前半はかなり呑気な雰囲気だ。経師屋の父を演じる河村黎吉とその妻役の飯田蝶子が、下町の楽しい夫婦を見せてくれる。息子は何と同じ年の『陸軍』で田中絹代がえんえんと追う息子を演じた星野和正で、あのノンビリした表情の少年が戦時下の兵士役に2度も使われたというのは、何とも不思議だ。

河村黎吉と飯田蝶子のほかにも海軍の班長役の小沢栄太郎や坂本武、分隊長の後任の笠智衆、近所の元海軍将校役の斎藤達雄など、松竹の名優が揃っているのも見て楽しい。それにしても海軍の班長や隊長が優し過ぎて、とても「国策映画」には見えない。

やはり古い邦画はおもしろい。


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