OLがわからない:朝井リョウとかちきりんとか
先日、映画『白ゆき姫殺人事件』を見て、OLがわからないと思った。美人の同僚に意地悪されたくらいで、殺すなんて。そういえば、内容はもっと穏便だがOLの苦悩を書いた小説を読んだ。朝井リョウ著『スペードの3』。
朝井リョウは、直木賞を取った『何者』がとにかくおもしろかった。大学生の就活の心理状況が何とも鮮やかに描かれていて、怖くなった。新作を読もうと思ったのは、講談社のPR誌『本』の彼のエッセーを読んだから。
彼が今回試みたこととして、「社会人として沸き立った感情を書く」「瑞々しい感性と言われるようなものに頼らない」「同時代のリアリティという点で評価されようとしない」と書かれていた。これは実に聡明だと思って、新作を買った。
ところがこれがおもしろくない。全体は3篇からなる。1つ目は、香北つかさというミュージカル女優のファンクラブの代表を務める30前のOL美千代の話。2つ目は、美千代の前に忽然と現れるかつての同級生みつ美の話。3つ目は落ち目の女優、香北つかさの話。
この3人の人生が重なり合うところがうまいけれど、所詮は30前の女たちのどこにでもある小さな悩みを微視的に描いただけだ。読んでいて『何者』のようなリアリティが感じられない。それこそ作者が避けようと思った点かもしれないが。私はOLがわからないが、この作家もわかっていないのではないか。これは失敗作かも。
OLで思い出したが、少し前に読んだ、ちきりん著『未来の働き方を考える』という本がおもしろかった。これは一言で言うと、世の中は変わりつつあるので、これからは低収入でも楽な生き方をしよう、というもの。著者の「ちきりん」はもちろん筆名だが、バブル期に証券会社に勤務後、アメリカの大学院に留学し、その後2010年まで外資系企業に勤めていたという。
だから彼女の言う「世の中は変わった」は、きちんとデータに基づいていて、説得力がある。そして彼女は40代は第二の人生を歩むのにぴったりという。もちろんそれは40代で著述業に移った著者の例なので、普通の人ができるとは思えないが。
この本で一番おもしろかったのは、「これから社会に出る人は、できるかぎり市場感覚を身につけられる仕事を選ぶことをお勧めします」という主張。これは全面的に賛成する。これが身につかない職業は、その後の選択の幅が狭くなる。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 『目まいのする散歩』を読んで(2024.11.01)
- イスタンブール残像:その(5)(2024.10.06)
- イスタンブール残像:その(4)(2024.10.02)
- イスタンブール残像:その(3)(2024.09.26)
- イスタンブール残像:その(2)(2024.09.24)
コメント