日本人は『フード左翼とフード右翼』に分かれるのか
速水健朗著の新書『フード左翼とフード右翼』を読んだ。少し前に雑誌「アエラ」で取り上げられていたので、気になって買った。副題は「食で分断される日本人」で、帯のキャッチは「政治思想を食で見抜く」。
帯のデッサンで本の内容はほぼわかる。フード左翼の女性は髪を短くまとめて手編みのカゴを下げているが、自然食、ベジタリアン、スローフード、地産地消などの言葉が並ぶ。フード右翼の男性はチェックのシャツにコンビニの袋を下げていて、メガフード、牛丼つゆだく、ジャンクフード、B級グルメなどと書かれている。
つまりは金のない人間はジャンクフードを好み、政治的には保守で外国嫌い、少し金のある人間は自然食を好み、反原発で外国好き。まあそんなところだが、確かにその通りだろう。
いくつかおもしろい指摘がある。アメリカでは1ドルでコーヒーが買える時代にスターバックスで3ドルや4ドルの珈琲を飲むのは、都市リベラルという文化記号らしい。「ニューヨークタイムス」や、アイパッドでニュースをチェックする人々で、スターバックスなどの消費データを支持政党の割り出しに使うらしい。日本では貧乏学生でもスターバックスに行くけど。
世界的にも食の二極化現象は進んでいるという。つまりは大量生産で生み出される工業製品としての食品か、職人の作る食品か。有機農法が必ずしも自然にいいわけではないという指摘もある。化学肥料を使わなければ何倍もの開墾が必要で、全くサステナブルではないらしい。
著者の考えは最後の次の一言に尽きる。「それぞれの人々の食べ物への向き合い方やこだわりの延長線上に、その人ならではの在り方が見えてきてさらにそれを突き詰めると、それは政治思想になる」。なんだ、当たり前じゃん。
私が最近気になるのは、「俺流ラーメン」とか「俺のフレンチ」とか「東京チカラめし」、「豚野郎ラーメン」など男性を意識した店名が増えたこと。今頃になってこんなマッチョの居直りは、格差社会の産物ではないだろうか。日本では、ネオマッチョが台頭しているのかもしれない。
私個人は、ジャンクフードもベジタリアンも嫌いだ。つまりここで言う右派でも左派でもない。何より、そんなレッテルを貼られるような生活は恥ずかしい。安くて普通にうまい食べ物が好きなだけだ。右でも左でもない、そんな普通の人々は意外に多いのではないだろうか。ちなみにスターバックスは昔から気持ちが悪い。
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