『サッドティー』のとりとめない魅力
5月31日公開の『サッドティー』を見た。今泉力哉監督の新作だが、彼の名前は昨年末に私の学生が主催した映画祭「監督、映画は学べますか?」でその作品を上映するまで知らなかった。その時、『微温』や『夏風邪』を見て、その奇妙な魅力を発見した。
今回の作品も含めて、どれも恋愛映画ばかり。ところがそこには純愛もなく、情熱もなく、性愛もない。何となく好きになったり、嫌いになったり。まるで犬か猫のように、くっついては離れるさまを、とりとめもなく固定カメラの長いショットで描いている。
今回はとりわけ登場人物も多く、上映時間も120分と長い。20代から30代の10人ほどの男女が、10話(たぶん)に分かれた物語の中で、微妙につながっている。彼らの好きや嫌いという話が、えんえんと続く。
もっともらしく理由をつけて二股をかけながら、脚本を書いていると称する男、柏木が一応中心だが、そんな少しだけ変な男女が続々と出てくる。経営する喫茶店のバイトの女の子に告白されたと妻に自慢して、呆れられる30代の男。競歩が趣味で、10年間無名のアイドルを追い続けたという男。喫茶店と古着屋でバイトしている、男を惚れさせるのが趣味の女。突然古着屋でバイトしている女を好きになってしまう男、等々。
最後にはそのうち6人が、アイドル追っかけの男を見るために海へ行く。そこで始まる恋愛や露呈する浮気。別にどうということはない話だが、映画が終わると眩暈がしてくる。
とりとめのない恋愛映画でも、エリック・ロメールのようなピュアさや躍動感はないし、ホン・サンスのような居直りのようなシニカルさはない。そこにあるのは、現代日本の恋愛のいいかげんさを描く奇妙な誠実さだろうか。ホン・サンスやロメールもそうだが、一見ドキュメンタリーのように見えて、計算されつくされた構成力を持つ。今後どんな映画を作るのか楽しみな監督だ。
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