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2014年4月 9日 (水)

『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』のいい雰囲気

絶対的にいい雰囲気の映画というのがある。昔のジャームッシュとかヴェンダースとか。たいしたことが起こる訳でもないのに、1つ1つの場面が何とも映画でしかない魅力に満ちている。5月公開のコーエン兄弟の『インサイド・ルーウィン・ディヴィス』もそんな1本。

舞台は1961年のニューヨークで、主人公はフォーク歌手志望の若者、ルーウィン・デイヴィス。映画は彼の歌から始まる。ステージを終えると、スーツの男が外で待っていて殴られる。

友人宅に居候しながら移り住む毎日。友人宅にいた猫を連れ歩いたり、別の友人の女ジーンに手を出して妊娠させたりのその日暮らし。それでも音楽に妥協はしない。職を探してシカゴへと向かうが、見つからない。かつてやった船員の仕事をしようとするが、免許証を亡くしている。

そんなこんなの八方塞がりの毎日だが、主人公は志を曲げるつもりはなく、淡々と生きて、旅をする。その主人公役のオスカー・アイザックに、今の若者にはない風情がある。暗くて、強い。そして彼が出会う人々の顔つきがいい。一度だけ関係を持ったジーン(キャリー・マリガン)は、そのちょっと悲しそうな笑顔がたまらない。

いつも泊めてくれるゴーフィン夫妻やその友人達の俗物を絵に描いたような言動も、シカゴに行く車に同乗する老ジャズ・ミュージシャン(ジョン・グッドマン)やその付き人の姿も、もう見るだけでおかしい。そしてボケてソファに座ったきりの父親の姿を見た時、心は凍りつく。ルーウィンが演奏する時の、父親の無言の横顔といったら。

自分の才能を信じて将来の心配を全くせず、人の世話になりながらやりたいことだけを続けるなんて、たぶんもうこんな若者は現代にはいない。この映画には、もはやなくなってしまった本物の青春へのノスタルジーが込められているように思えた。

1961年と言えば、私が生まれた年だ。それから経済成長と反逆の時代があって、私がものを考えるようになった頃には、すべてが平和で安定志向の金儲け社会になってしまった。この映画の本当に寒そうなニューヨークやシカゴを見ながら、そんなことを考えた。

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