松林桂月の水墨画に酔う
最近は、日本画家の個展というだけで見たくなる。それも明治や大正期だとなおさら。というわけで練馬区立美術館で6月8日まで開催の「没後50年 松林桂月展」を見に行った。
松林桂月(1876‐1963)という名前は、実は聞いたことがある程度。明治・大正・昭和と活躍し、戦後に文化勲章までもらっているが、彼の大規模な個展は1983年に山口県立美術館で開かれたきりだという。
今回の展覧会を見ると、すべての展示作品に宿る画力に圧倒される。20歳前後から鶏や鷲や鵞鳥をリアルかつ様式的に描き、だんだんと水墨画の世界に入る。
完全に白と黒の世界もあれば、わずかな色彩が光る作品もある。だんだん作品は大きくなり、四幅や六曲一双の10メートルを越すような屏風画も出てくる。例えば《松林山水》のあちこちに小さく散りばめられた緑を見ていると、頭がくらくらしてくる。
あるいは《山居》も六曲一双だが、墨で描かれた山の中の藁の家に住む男を見ていると、自分がそこにいるような錯覚に陥る。
この画家には、戦争の影は一切ない。例えば1943年の六曲一双の《天保九如》は岩山の中の松を描いているが、それまでと全く変わりはない。戦後になっても白黒を基調にした水墨画を描き続ける。
見終わってチラシやポスターに使われている《春宵花影》がなかったことに気がついた。東京国立近代美術館所蔵の朧月夜に白く浮かび上がる桜の絵で、で5月11日までの展示だった。入口で改めて出品目録を見ると、半分近い作品は前期か後期の出品だった。
これは前期も見るべきだったと反省。《春宵花影》はいつか東近美で見る機会があるだろうか。それにしても全国から作品を集めたこの個展は、今年東京で必見の展覧会だと、カタログを見ながら思う。既に去年から山口や愛知で開催されており、練馬が最終会場。
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