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2014年5月18日 (日)

『ポリティコン』の展開に唸る

桐野夏生著『ポリティコン』が文庫になったので、読んだ。上下巻だが、最初はあまり気乗りがしなくてほかの本を読んだりしながら、上巻を読むのに1週間以上かかった。ところが上巻の終わりあたりから俄然おもしろくなった。

そして下巻を半日で読み終えた。とりわけその予想を超えた展開のおもしろさ、構想の大きさ、そしてその現実味に唸った。

冒頭は母と暮らす少女、真矢の話だが、すぐに東北の寒村に建設された唯腕(いわん)村の話が始まる。そこは明治時代に作られたユートピアで、その建設者の3代目高浪東一が語り手となる。村は老人ばかりで貧しく、違法滞在の外国人たちが逃げ込んでくる。高校生の真矢=マヤもその1人だが、東一は夢中になる。

東一はマヤに嫌われて一度は村を捨てるが、理事長だった父の死をきっかけに戻り、3代目理事長として村を立て直そうとする。ヤクザにつかまったり、流れてきたベトナム人女性との間に子供を作ったり、村内抗争を起こしたりしながら。そして10年後、村を出た真矢が28歳になってそこに戻ってくる。

明治の理想郷が、外国人の溜まり場となって脱北ビジネスともつながったり、メディアを利用して有機農業に活路を見出したり。この150年の日本の歴史が凝縮されたような形で迫ってくる。小さな権力を持って威張り散らす東一の弱さも含めて、近代以降の日本人のグロテスクさと強さを裏側の歴史からあぶりだしている。

その構想の大きさは、昔読んだ大江健三郎の『万延元年のフットボール』や高橋和巳の『邪宗門』を思い出した。もちろんこちらは娯楽小説なので、どんどん読めるけれど。ベストセラー作家の中では、桐野夏生は抜群の歴史観や世界観を持っていると思う。

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