刺激を欠いた都写美の展示2つ
1980年代の後半に就職した私は、偶然に日本の現代美術に係わる仕事をすることになった。ちょうどバブルに向かう時期だったので、急に現代美術がカッコ良く見えて、毎週のように美術館や画廊のオープニング・パーティに通っていた。
東京都写真美術館で7月13日まで開催中の「佐藤時啓」展を見たいと思ったのは、この作家がまさに80年代後半に出てきたスターの1人だったから。写真の長時間露光によって、風景の中に光がただよう白黒写真を最初に見た時は驚いた。
展覧会の副題は「光―呼吸 そこにいる、そこにいない」。現実には存在しない光の風景を、写真という技術を使って作り上げるのだから、ピッタリのタイトルだ。
ところが展覧会は、私には刺激がなかった。最近の作品もあるが、基本的には80年代から変わっていない。四半世紀も同じことをするのはすごいとも言えるが、最近彼の作品を見ておらず、その変容や成熟を期待していた私はあれっと思った。
途中でピンホールカメラやポラロイドを使った作品もあるが、驚きはない。美術館で大きな個展をやるような作家だったのかどうか。
そこで、所蔵作品からなる「スピリチュアル・ワールド」展も見た。有名な日本の写真家たちが神社や民間宗教、修道院など「聖なる場所」を撮った写真が並んでいた。渡辺義雄や石元泰博の伊勢神宮、東松照明の離島、土門拳の奈良の古寺、藤原新也のインドなど、おなじみだが見ごたえがある。
一番おもしろかったのは、内藤正敏の「婆バクハツ!」シリーズ。青森のイタコの口寄せ(降霊)の儀式を行う老婆たちを撮ったもので、ちょっと恐ろしくなった。本当に他人が乗り移っている感じが伝わってきた。
最後に横尾忠則の動く映像を撮り込んだ作品や三好耕三の温泉の写真を見ていたら、何でもありじゃないかという気がしてきた。全体としては焦点の甘いテーマ展と言うべきだろう。
家に帰って調べたら、佐藤時啓は今は東京芸大の教授だった。観客に大学生が多かったのはそのせいか。
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