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2014年6月11日 (水)

もう1つの「フランス映画のある種の傾向」

6月27日から始まるフランス映画祭で上映される『素顔のルル』を試写で見た。かつて『陽のあたる場所から』という佳作が日本でも封切られたソルヴェイグ・アンスパック監督の新作だが、こちらは劇場公開が決まっていないようだ。

先日ここでヒットを目的としたフランス映画の大作について書いたが、この映画はある意味で、もう1つの「フランス映画のある種の傾向」と言えるかもしれない。

一言で言うと、「どうでもいいような話を低予算で即興だが丁寧に撮った映画」という感じか。もちろんこれはヌーヴェル・ヴァーグが映画にもたらした1つの方向であることは間違いなく、エリック・ロメールもジャック・ロジエも、後の世代のフィリップ・ガレルやジャック・ドワイヨンやそんな映画を残している。最近だと『女っ気なし』か。

この映画は、40歳前後の主婦ルルのさすらいを描く。就職試験に失敗し、帰りの電車に乗り遅れて一泊することになるルルは、海に面した街で、さまざまな人々に出会う。刑務所から出てきた男とその兄弟、1人暮らしの老女、カフェに勤める若い娘など。ルルの滞在は一日一日と伸びてゆき、心配した妹や娘まで迎えに来るが…。

冒頭のトイレのシーンで、主人公のルルが鏡の前に立っていると「ここは紳士用ですよ」と注意されるところからもうおかしい。彼女はどこかダサいが、出てくる男たちはそれに輪をかけてダメ男ばかりだ。話は最後の最後までどうなるか全く予想がつかない。

それでも見終わると、心がちょっと温かくなる。素直に自分の心に従うルルがだんだん可愛らしく見えてくるし、老女やカフェの娘などの人生にも触れる気がする。気が強そうな娘もいいところを見せる。ルルを演じるカリン・ヴィアールを始めとした俳優たちがいい。

すべてが即興のように見えて、実は考えつくされたメルヘンだとわかる。87分の愛すべき小品だが、それでもそんな田舎の主婦の気まぐれの話を誰が見たいかとも思う。日本での公開は難しいと思うので、映画好きならばフランス映画祭で見て欲しい。

2つの「フランス映画のある種の傾向」を考えながら、パスカル・フェラン監督が『レディ・チャタレー』でセザール賞作品賞を取った時のスピーチを思い出した。10億円近い大作と数千万円の小品との間の、1億円から2億円くらいの予算の個性的な映画がもう作れない状況にある、という内容だった。今もそうなのだろうか。

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