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2014年6月19日 (木)

無敵の鉄斎

日比谷の出光美術館で、始まったばかりの鉄斎展を見た。この美術館が所蔵する冨岡鉄斎の70余点のみで構成された展覧会だが、これはもう完全無敵という表現がピッタリな水墨画が並んでいる。

鉄斎は、幕末から明治、大正と激動の時代を89歳まで生きているが、その絵にはおよそ時代の影がない。日本と中国の書画を紐解き、山河や中国の古事ばかりを題材にしている。そのほとんどの絵の中に漢文が添えられている。

ヘタウマのようにも見えるが、その迫力、気品といったものに圧倒される。漢文は読めないが、キャプションの書き下し文で、何とか内容がわかる。

西洋化されつつある日本はどこにもない。というか、日本もなければ日常の風景もない。人間も山水画の中に小さく出てくるのみ。描かれるのは、書物の中に存在する中国の理想郷。

展示のあちこちに鉄斎の写真があるが、まるで仙人のようで絵にピッタリ。すべての絵に何歳で描いたか書かれているのがおもしろい。なんと、80歳を過ぎてからの絵がどんどん自由闊達になっていって、一番見ごたえがある。

一体どんな暮らしをしていたのかと年表を見るが、何をして暮らしたのか判然としない。京都の法衣商の次男で私塾を開いたり、神社に勤めたり。50代くらいからは大御所として画壇の委員を務めたり、京都美術学校で教えたり。

《口出蓬莱図》という絵があるが、これは毎日夕方に蓬莱山を思って30年年間念じ続けたら、その神仙のありさまがつぶさに思い描くことができるようになったという中国の古事を描いている。口から吹き出しのように蓬莱山の光景が出てきていておかしい。まさに鉄斎そのものではないか。

あくまで書物を読むことが中心で、絵は余技という最後の文人画家にふさわしい絵の数々と経歴と風貌。いやはや脱帽。夏の暑い日に見れば、精神の圧倒的な涼感を得ることは間違いない。8月3日まで開催。

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