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2014年7月 3日 (木)

お馬さんごっこをめぐって

先日、増村保造の『氾濫』について書いた時、大事なシーンに触れるのを忘れていた。「お馬さんごっこ」の場面である。佐分利信演じる主人公の会社員の妻(沢村貞子)は、ピアノ教師の愛人(船越英二)のもとにデパートで買ったプレゼントを持って訪れる。

ところが船越は若い娘の馬になって、床に四つん這いの格好をしている。それを見て驚いた沢村は「一体あなたは何をしているのですか」。これに対して船越は悪びれもせず「何をしているって、お馬さんごっこですよ」。沢村は驚愕の表情を見せる。

お馬さんごっこで思い出すのは、もちろん谷崎潤一郎の『痴人の愛』。この小説ではナオミとお馬さんごっこをする主人公の場面が何度か出てくるが、ラストにナオミに何でもするからと懇願して馬になる場面が忘れがたい。最初にこの小説を読んだのはたぶん高校生の時だが、どきどきしたのを覚えている。

調べてみると、この小説は大阪朝日新聞に1924年(大正13年)に連載されている。お馬さんごっこの絵入りだったというが、よく当時の新聞に載せれられたものだと思う。

現在では、お馬さんごっこは、SMのイメージになってしまったようだが、日本の文学には谷崎以前にこのイメージはあるのだろうか。谷崎のことだから、西洋文学から持ってきたような気もするが。文学史では知られたことかもしれないが、ちょっと調べてみたい。ポンペイの壁画にあった気もする。

いずれにしてもこのイメージが強烈なせいか、この小説は何度も映画化されている。増村自身も1967年に映画化しているし。

『氾濫』に戻ると、呆れた沢村は「あれは真剣な恋ではなかったのですか」と問いただす。すると船越は、「真剣な恋だって?てめえの顔をよく見なさい」と言い放つ。

これほど中年女性を傷つける残酷な言葉はないだろう。増村の映画はそうした言葉の暴力に満ちている。

そう言えば、『美貌に罪あり』(59)について書くのを忘れていた。これはお盆興行の「オールスター映画」らしく、増村映画の常連の若尾文子、野添ひとみ、川口浩、川崎敬三に加えて、勝新太郎、山本富士子、杉村春子が出ている。

ほかの増村映画に比べると映画としてのドラマは弱いが、母役の杉村が守る川崎の旧家が売られてゆくさまを『桜の園』風に描いている。なんといっても、山本富士子演じる長女と結婚する踊りの師匠役の勝新太郎が、まさに「水も滴る」ようないい男ぶりを見せる。

この映画でもキーワードはお金だ。山本は勝新が師匠として独立するために500万円が必要だ。杉村は自宅を売ることでそのお金を作り、残りのお金で八丈島に農場を買って、若尾や川口と移り住む。愛とお金がいつも隣り合う。

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