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2014年7月 4日 (金)

男たちがバカに見える増村映画

実を言うと、増村保造の『妻は告白する』(1961)を初めて見た。昔から傑作だと言われていたので是非スクリーンで見ようと思ってからもう20年はたったが、ようやくその機会が来た。予想していた内容と違ったが、抜群におもしろかった。

大学助教授(小沢栄太郎)の妻・彩子を演じる若尾文子が、登山の事故で夫がぶら下がるロープを切ってしまう。これは殺人かどうかという裁判を中心に、物語は進む。時おりフラッシュバックで、夫婦の結婚とその後の生活や彩子が好意を寄せていた青年・幸田(川口浩)との関係が再現される。

小沢は横柄で封建的な昔のタイプの男で、あまりに型通り。裁判はサスペンスというよりも、貧しく愛情に飢えていた若尾のこれまでを見せてゆく。だから裁判劇としてはあまりピンと来ない。裁判なので、1つの画面に何人もの人間が別々の方向を向いている増村ならではの構図は堪能できるし、500万円の保険金がかかっていたというには増村らしいが、これも必然性は弱い。

盛り上がるのは判決の直前あたりから。ザイルを切る瞬間の再現は生々しいし、最後の弁明で若尾は「夫は山で死んで本望でしょう。私は今度こそ幸福な結婚をしたい」と本音を言う。そして判決の前日に「私を愛して、思い切り、いっぱい」という若尾の願いを聞き入れて、川口は若尾を海に連れ出す。無罪判決の場面は写らず、新聞記者の話でわかるだけ。裁判所を出た若尾は川口と並んで手を取り、「一生こうして歩けるのね」

保険金を当て込んで高級アパートに引っ越した若尾を、川口は非難して出てゆく。すごいのは、それから川口の会社に若尾が突然びしょ濡れの和服で現れてから。まわりの社員たちもびっくりだが、私も冷汗が。別室で川口に結婚できないと言われて「結婚なんていいの。半月に1度会ってくださらない。だめなら1月に一度。1年に1度でも、2年に1度でも、3年に1度でもいいわ」

それでも断られた若尾は、もう死にそうに階段を下りてゆく。そこにダメ押しをするのは、川口の元婚約者(馬淵晴子)の川口への言葉。「あなたは誰も愛さなかった。私だってそうよ。奥さんだけは愛のためならなんでもやるわ。私は奥さんのように生きたかった」。そして自死した若尾の死体を前に、馬淵は川口に「奥さんを殺したのはあなたよ」

最後の2人の女の逆襲に、夫も裁判も川口でさえもどうでもよくなる。手前にでんと横たわる若尾のシルエットの向こうの男たちが、みんなバカに見えてくる。

職場に突如別れたはずの恋人が現れて愛を宣言するというのは、今でも日本の男にとっては一番恐い風景なのではないだろうか。

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コメント

いつも拝読しております。素敵な感想だと思いました。

投稿: ウエダテルヒサ | 2014年7月 4日 (金) 12時57分

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