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2014年7月15日 (火)

『わたしのハワイの歩きかた』の快い裏切り

ようやく前田弘二監督の『わたしのハワイの歩き方』を見た。前作『婚前特急』で吉高由里子が5股をかける抜群のコメディを作っていたので、見たいと思った。しかし、東映の配給でこの安易すぎる題名なので、ちょっと引いていた。

映画はもちろん、「わたしのハワイの歩きかた」から想像する内容とはかけ離れている。ハワイの観光地が出てくるわけでも、主人公が誰も知らないハワイを紹介するわけでもない。

榮倉奈々演じる編集者の主人公は、友人のハワイの結婚式の二次会のセッティングを頼まれ、いい機会だとハワイ本を作る目的で出張する。ところが映画は、二次会の設定も本の取材もほとんど追わない。毎日を適当に過ごしながら、酒を飲み、恋をする榮倉を追いかけるだけだ。

そのうえ、榮倉には強い意志がない。思いつきでハワイ在住の金持ちの加瀬亮にキスをしたり(これは『婚前特急』でもあったが、今回も2回出てくる)、怪しい起業家(瀬戸康史)について行ったり。

そんな行き当たりばったりのような日々を描いた映画なのに、ちゃんと人物たちの人情の機微が描かれている。榮倉の心が加瀬から瀬戸に移ってゆくあたりを、夜の海岸の散歩のロングショットできちんととらえているし、ハワイに住んで何とか金持ちと知り合いたい日本人たちの複雑な気持ちも丁寧に描き分けている。

そもそも榮倉が編集者としてハワイに行かずに3冊も本を手掛けたこと自体ありえないし、友人の二次会のセッティングを引き受けるのも不自然だし、突然ハワイの出張が決まることもヘンだ。出張しても取材していたのは最初だけだし。

つまりは二重三重に観客を裏切りながらも、ラブコメとして楽しめる仕掛けができている。最後には友人の二次会も成功し、本も出版される。ありえないはずの物語が進行するのに、あえて三枚目を演じる榮倉の自然さがまぶしく見えて、心が和んでくる。そのうえ、時おり挟み込まれるハワイの光景も、ゆるやかな時間の流れを見せてくれる。

『婚前特急』の方が映画的なエッセンスが詰まっていて好きだが、商業映画として撮られたこちらの作品も快い裏切りのような魅力がある。

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