« 『好きっていいなよ。』を見た理由 | トップページ | 学生がひどく講義できません »

2014年7月30日 (水)

『女の小箱・より 夫が見た』は傑作

初めて増村の『女の小箱・より 夫が見た』(64)を見た。彼の映画の中で一番好きかもしれない。『妻は告白する』とか『巨人と玩具』とか『赤い天使』のように有名な作品ではないが、増村には珍しく男女が正面から愛し合う映画だった。

ナイトクラブ経営者役の田宮二郎は、目をつけた会社の株を買い占めて、乗っ取りをたくらむ。その会社の株式課長が川崎敬三で、妻が若尾文子。田宮の妻は岸田今日子で秘書は江波杏子。キザな田宮が妖艶な若尾にアタックし、若尾がようやくそれに応えるという展開だが、この濃い5人の組みつほぐれつが凄まじい。

田宮は株を買う資金を借りるために、岸田に銀行の頭取たちと寝るよう命じる。川崎は田宮の秘密を探るために、秘書の江波杏子と情を通じる。会社だけが命の川崎に愛想をつかした若尾は、田宮の力と誠実さを愛するようになる。

冒頭、若尾文子が風呂に入っているシーンに度肝を抜かれた。かなり乳房が見えるし、あえて贅肉が少しついた感じを写している。下着をつけるまでゆっくり見せた後で電話が鳴る。「今日も遅いから」という夫。タイトルが出る前に、彼女の絶望的孤独がわかる。

前半の田宮と川崎の化かし合い合戦もおもしろいが、後半、若尾が決意して田宮と箱根の芦ノ湖畔のホテルに行くあたりからが盛り上がる。若尾が火をつけて吸ったタバコを車を運転する田宮に渡し、田宮はおいしそうに吸う。もうこれだけで愛が成立している。

若尾がそこで風呂に入っているシーンが写るが、それは冒頭のタイル張りの狭く暗い風呂ではなく、真っ白な大きなバスタブだ。ベッドで若尾は田宮に、株を売って自分と結婚してくれと頼む。「そればっかりはできない。僕の夢だったから」という田宮に「あなたの夢と私とどっちが欲しいの」と迫る。すると田宮は「これは参った。よし、長年の夢を捨て株を売ろう。君と結婚しよう」

帰宅した若尾は夫の川崎に「あなた、株券が欲しいの、それとも私が欲しいの」と迫る。約束の時間に現れない田宮は、自宅で妻の岸田に「私を裏切った罰よ。誰にも渡さない」とナイフを刺される。血の海の現場に若尾が現れて田宮を抱きしめるところで「終」のマーク。

『妻は告白する』での不倫する人妻=若尾が、さらに進化したような感じか。増村は間抜けな会社員たちを馬鹿にし、田宮の成り上がりを礼賛する。彼が株を買う会社社長役の小沢栄太郎の「私は会社をつぶす善人よりも、発展させる悪党がいい」と言い、田宮の味方をするセリフに現れている。

若尾は仕事をしているわけでも何をしたいわけでもない。愛し愛されることのみが女の幸せというあたりが、増村の古さだろう。田宮がナイトクラブを売る時、「三国人の李が買うらしい」と言う表現にも、ちょっと驚いた。小沢の演じる役は、戦後の混乱期に裸一貫で会社を起こした感じがよく出ている。

もっと書くことはあるが、今日はこのあたりでおしまい。

|

« 『好きっていいなよ。』を見た理由 | トップページ | 学生がひどく講義できません »

映画」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/537538/60066394

この記事へのトラックバック一覧です: 『女の小箱・より 夫が見た』は傑作:

« 『好きっていいなよ。』を見た理由 | トップページ | 学生がひどく講義できません »