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2014年8月24日 (日)

何でも映画にする増村保造

『でんきくらげ』(70)もそうだったが、『セックス・チェック 第二の性』(68)という題名を聞くと、エロ路線の下品な映画かと思いがちだ。ところがこちらも増村らしい、ずいぶんまともな作品だった。大映末期の題名はそういうものかもしれない。

この映画は、男まさりの女子短距離走者(安田道代)を緒方拳演じるコーチが育て上げ、オリンピックに出そうとする話だ。緒方は安田に男になれとヒゲを剃らせたり、言葉遣いまで直したりするが、その結果として安田はセックス・チェックで男性と判断される。

今度は緒方は安田を女性にしようとコーチの傍ら毎晩関係を持つが、女性と診断された後のレースで、安田は平凡な記録しか出せない。2人は陸上を捨ててただの男女として歩き出す。

何とも奇妙な物語だが、見ていてかなりのリアリティがある。緒方は戦前に活躍した選手だが、戦争で人を殺したり女を犯したりした過去を持ち、戦後もヤクザやヒモの生活を送る。安田は両親がおらず、親戚に育てられた孤独な女。

この2人が不可思議な師弟愛で結びつき、それが本物の愛に転化してゆくさまを映画は克明に写す。緒方の人懐っこく野性味溢れる若々しさと、安田の中性的で硬質な体の魅力がこの奇妙な恋愛にぴったりだ。

『映画監督 増村保造の世界』を読んでいたら、安田(楠田)道代のインタビューがあった。安田は体を作るために、埼玉に一か月通ってプロについて朝から晩まで百メートル走を練習したという。最後にはオリンピックに出ないかと言われたくらいで、走るシーンは部分のカットも含めてすべて本物らしい。

緒方拳に至っては、冒頭に多数出てくる過去の栄光のゴール写真のためだけに、一か月訓練を受けたという。大映末期とはいえ、それだけの余裕がまだあったのに驚く。緒方の中国の回想も、きちんとセットを組んで爆弾を使っているし。

同じ本には緒方拳のインタビューもあって、もともと「スプリンター」になっていた題名が変わったので、緒方は監督に抗議したらしい。すると増村は「あのう……しょうがないんだろう」。

来週からしばらく海外に行くので、たぶんフィルムセンターでの増村はこれでおしまい。この夏は、増村と共に終わった。フィルムセンターよ、ありがとう!

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