« ガス・ヴァン・サントは裏切らない | トップページ | 5回目のヨコトリ:その(2) »

2014年8月26日 (火)

『新しき土』の伊丹版に驚く

一時期、戦前における日本映画の海外進出について調べていたことがあった。その時にいつも気になったのが、日本初の本格的国際合作映画『新しき土』だった。ドイツの監督アーノルト・ファンクが来日して日本を舞台にして撮ったもので、16歳の原節子が主演だ。

この映画は日本側で伊丹万作が共同監督として立ち、最終的にファンク版と伊丹版が作られたことが知られている。新聞などを調べても当時の評価は圧倒的にファンク版の方がよく、東京での興行は最初に伊丹版を1週間、それからファンク版を2週間やったはずだ。

これまで私はこの映画をファンク版のDVDで見たのみだった。ところがフィルムセンターで両方の版を上映するというので見比べてみた。まずセンターのファンク版で驚いたのが、長いことだ。市販のDVDは105分なのにこちらは126分もある。もともと退屈な映画だが、長い分さらに耐え難かった。

とりわけ前半の日本の風物を見せるシーンと、終盤の火山のシーンが長かった。ファンク版のうち、DVD版と長尺フィルムセンター版の違いについては今度DVDを見て比べようと思うが、今回驚いたのは伊丹版だった。

まず冒頭に伊丹の言い訳のような文章が出てくる。それも自分の言い訳ではなくファンクは彼なりに頑張ったという内容だった。映画を最後まで見ると、当時の評価とは逆に伊丹版の方がずっと良かった。

例えば東京に着いた小杉勇演じる輝雄と連れてきたドイツ人女性ゲルダは、華やかな東京のネオンサインを見る。ファンク版だとそこに阪神電車のネオンもあって従来から笑いのネタだったが、このカットがない。同じシーンで全く別カットを使った箇所も多い。

輝雄の義父を演じる早川雪洲とその娘役の原とゲルダが神戸の家で日本食をとるシーンがあるが、ファンク版は日本食をアップして箸をゲルダが箸を使うのに苦労する場面を執拗に見せる。ところが伊丹版は3人が並んで食べるミディアム・ショットで、ゲルダの苦労はさらりとしか見せない。

最も驚いたのは、終盤の小杉が火山で自殺しようとする原を追いかけるシーン。一言で言うと大げさでなくなり、自然な運び。ファンク版では小杉が火山で足をやけどしたり、池の中を泳いだりするシーンがあるが、伊丹版にはない。ファンク版では原が飛び降りる前に小杉がたどり着くが、伊丹版では飛び降りた原が岩に引っかかっていたのを小杉が見つけるという自然な流れに。その後の山小屋もファンク版にはない。

彼らが満洲に行く前には、伊丹版では結納道具のショットが1カット入るが、ファンク版にはない。最後の満洲のシーンではファンク版はやたらに銃を持った屯田兵を強調するが、伊丹版ではシルエットのみ。もちろんこちらの方がずっと詩的に見える。

どう見ても伊丹版の方が繊細に見えるが、どうして当時の評価は逆だったのか。謎は深まる。伊丹版もDVDが出たらきちんと比較できるのに。著作権の切れた映画は、韓国ではネットで無料で見られるというが、フィルムセンターもどうにかできないものか。

|

« ガス・ヴァン・サントは裏切らない | トップページ | 5回目のヨコトリ:その(2) »

映画」カテゴリの記事

コメント

伊丹版のラストの兵士のショットは「詩的」という以上に、ほとんど「反戦的」なのではないでしょうか。ファンク版はノーテンキなまでに「英雄的」ですよね。顔が見えずに、銃剣がキラリと光るなんて、絶対に好意をもった描き方ではありません。編集を手伝った岸富美子さんはJOスタジオで仕上げ中の万作は「真っ青で幽霊みたいだった」と証言していました。この作品で万作が抵抗に抵抗を重ねて、生命を擦り減らしたのだと、ぼくも思います。http://www.nikkei.com/my/#!/article/DGKDZO38892550X10C12A2MZ7000/

投稿: 古賀重樹 | 2014年8月27日 (水) 00時50分

伊丹版では輝雄はドイツ留学ではなく、イギリス留学帰りという設定になっているようですね。

投稿: 吉田 | 2014年8月28日 (木) 00時32分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/537538/60210954

この記事へのトラックバック一覧です: 『新しき土』の伊丹版に驚く:

« ガス・ヴァン・サントは裏切らない | トップページ | 5回目のヨコトリ:その(2) »