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2014年8月25日 (月)

ガス・ヴァン・サントは裏切らない

新作が来ると、とにかく見たくなる監督がいる。ガス・ヴァン・サントもその1人で、彼の映画は多様だが、どれも裏切らない。光の当たらない人々への優しさと権力に立ち向かう勇気、つまりはアメリカの良心を繊細な映像で見せてくれるから。

新作の『プロミスト・ランド』は2012年の作品なのに今頃公開なので、よほど地味な当たらない作品かと思った。主演はマット・デイモンなのに。見てみると、確かに日本人受けする話題ではない。

アメリカの田舎で、シェールガス採掘のための掘削権借り上げの営業をするセールスマンが、マット・デイモン演じる主人公。映画は彼が反対派を押さえながら契約を進めるうちに、自分で正しいかわからなくなってゆくさまを描く。

日本には関係のないシェール・ガスだし、会社員の悩みというパッとしないテーマだし、確かに『エレファント』(03)や『ミルク』(08)のようなある意味でカッコいい鮮烈な物語からは程遠い。それでも見ていると、マット・デイモンを演じるスティーヴを始めとして登場人物たちが愛おしくなってくる。

スティーヴの相棒スーを演じるフランシス・マクドマルドが抜群だ。決して美人ではないが、ユーモアと優しさと知性でスティーヴを支える。突然やってくる環境保護活動家役のジョン・クラシンスキーも憎たらしいほどうまいし、スティーヴが好きになる女性教師や反対派の老教師など、見ていて絵になる俳優たちが揃っている。

何度か空撮も出てくる田舎の風景がいい。そこにいることの快感が伝わってくるような映像だ。女性教師が住む代々受け継いだ家と庭なんて、地上の楽園のように見える。そのなかでもともと田舎出身のスティーヴの心が溶けてゆく。全体に抑えた感じの淡い色彩構成が目に心地よい。

終盤、ある秘密が突然露呈して物語は急展開を遂げる。あまりに急な結末のつけ方に違和感を持つ観客もいるかもしれないが、アメリカの田舎の空気を十分に吸い込んだ気がして、私は満足だった。

将来のない田舎に住む人々が、エネルギー開発に協力して大金を受け取り、自らを破綻させてゆく姿は原発とあまりにも似た構造だ。それにしてもアメリカの大企業は恐ろしい。そういえば、この映画にはアブダブの会社が出資している。まさか、石油に代わるシェールガス開発を阻止するためではないだろうけど。

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