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2014年9月13日 (土)

最初の5分でやられた『パーソナル・ソング』

最初の5分で完全にやられた映画に出会った。認知症の老人たちへの音楽療法をテーマにしたアメリカのドキュメンタリー『パーソナル・ソング』のことだ。唇の厚い、黙りこくった90歳の黒人老女にi Podでゴスペルを利かせたとたんに「ルイ・アームストロングだわ!」

それまで昔のことはすべて忘れたと言っていた老女は、学生時代にアームストロングのコンサートに親に内緒で行ったことを嬉しそうに語りだす。

次はもっと驚く。94歳で10年間も施設でふさぎ込んでいる黒人男性ヘンリーは、自分の名前もわからない。いつも下を向いて何を言っても反応しない。ところがi Podでゴスペルの曲を聞かせた途端に目玉をぎょろりと動かして、「歌っていいかい」。それから立って両手を動かして歌い始める。「一番好きだったのはキャブ・キャラウェーなんだ」。

そんな具合に映画は続いてゆく。中心となるのは、i Podによる音楽療法を広めようと運動しているダン・コーエンというソーシャル・ワーカー。医師などのインタビューの中から、音楽療法は全く治療として認められていないため、保険も効かず病院も取り組まないことがわかってくる。

いくもの病院での成功例が見せられる。ヘンリーの動画をネットにアップすると大きな反響を呼び、寄付が集まって施設の側も導入し始める。

そんな小さな成功物語だが、残念なのは映像処理がうますぎる点かもしれない。成功例を並べて、過去の個人的映像や写真、フッテージを巧みに取り込んでいるがゆえに出来すぎな感じが残る。それでもこの映画のインパクトはすごい。ひょっとして日本でも社会的な反響を呼ぶのではないか。

私の身近にも認知症の人々はいる。施設では歌を歌わせたりしているので既に音楽療法はあるはずだが、各個人の好きな歌=パーソナル・ソングを探り、i Podでヘッドフォンで聞かせるというのが大きいようだ。

果たして私の母のパーソナル・ソングは何だろうか、と考える自分がいた。あるいは、自分自身のパーソナル・ソングは何だろうか。

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