旅行中の新書:『日本劣化論』
毎日、本を持って歩く。手元に本がないと不安になるから、これは病気に近い。海外に行く時などは5、6冊は持って行く。もちろんその半分しか読めないが。今年のベネチア行きでは、なぜか新書をたくさん持って行った。
最初に読んだのは、笠井潔と白井聡の対談本『日本劣化論』。最近の若者はダメだとか、今の日本人はなっちょらんといった話は苦手だが、白井聡の『永続敗戦論』は今年の初めに読んでかなり刺激を受けたから買ってみた。
30歳ほど上の、笠井潔という団塊世代の小説家・評論家との対談のせいか、お互いが気を使いあっているところもあるし、妙に「そうだそうだ」と意気投合したりして、あまりおもしろくなかった。
それでも細部にポロリポロリと印象的な発言がある。白井はアベノミクスのことを、「本当は成功していなくても、成功していることにしてしまおうという目に見えない大きな力が働いていて」いるとして、それを「日本社会全体が持っている共同主観性」とし、「自主的にやってしまっている」。
これはほかにも書いている人がいたが、笠井は「安部政治に抵抗し、戦後民主主義の崩壊をぎりぎりで押しとどめている二大パワーがオバマ大統領とアキヒト天皇だという事実には、笑い話ですまされないものがあります」。
日本が中国や韓国に何度も謝らされているという問題に関しては、白井はきっぱりと「失言によってあらためて謝罪せざるを得ないような状況を日本の側がつくってしまったケースがほとんどです」。
笠井は日中戦争が起きたら「最終的に戦争は日本の敗北に終わります」と言う。「中国にしてみれば日本に対中従属政権を樹立し、そのうえで間接支配の体制を築きたい。それが達成できないのなら、いっそのこと日本を焼野原にしてしまった方がいい」。白井は「原発を破壊すれば日本列島は廃墟になります」。こういう煽りはどうか。
「3.11以後、社会が本音モードになって、戦後日本が隠していたものがダダ漏れ状態で出てくるようになりました」と白井が言うのは本当だと思う。「震災のショックの中で今まで築き上げてきた世界に綻びが生じ、壊れつつあります。…その不安に耐えられないから何とか昔に戻してくれるのではないかということで安部さんのような人を支持してしまう」ということも。
やはり対談ではなく、それぞれの本を読んだ方がいいというのが、この本を読んでのとりあえずの結論。
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