『不機嫌なママにメルシィ!』の醸し出す雰囲気
私はゲイではなく普通に女性が好きだが、妙に女性的な部分がある気がする。あるいは、男たちより女たちの方が一緒にいて楽だ。それはおそらく姉が4人もいたことに起因すると思うが、そんな私のツボにはまったのが現在上映中のフランス映画『不機嫌なママにメルシィ!』。
これはギョーム・ガリエンヌの監督・主演映画で、そのうえ彼が自分とママという2つの役を演じる。さらに話は彼が1人舞台をやりながら自分のこれまでの人生を回想するという形を取るため、1人4役といってもいいかもしれない。
ギョームはマッチョな父や2人の兄と馴染めず、母を真似て女の子のように育ってゆく。それを嫌がる父は、英国の全寮制の男子校に入れるが、うまくいかない。徴兵検査では不合格で、ゲイの世界に近づくが、そこにも嫌悪感を覚える。そしてある女子会パーティに紛れ込んだら、そこで運命の女性にめぐりあう。
原題はLes garcons et Guillaume a table! 「男の子たちとギョーム、ご飯よ」で、これは母親が小さい頃から家庭で言っていた言葉だ。女子会でギョームは「女の子たちとギョーム、ご飯よ」という言葉を聞いて、大喜びする。マッチョな世界が嫌なだけで、自分は女の子ではなかったということか。私もこの場面で妙に頷いた。
体がぽっちゃりして確かに女性的で、少年とママを演じ分けるギョーム・ガリエンヌの才人ぶりが際立っている。繊細過ぎる少年の世界にするりと入っていくことができる。そしてママはスペインにも英国にもどこにでも現れるシュールな存在。中盤でプールに落ちて自由に泳ぎ回るあたりから、見ていてどんどん楽しくなる。乗馬に夢中になっているシーンにワグナーのタンホイザーが流れるのも忘れがたい。
映画は、ゲイか否かといった区分を軽やかに飛び越える。LGTBのどれにも属さないが、普通とは違う。傑作などと言うつもりはないが、87分の洒落た小品だと思う。たぶん人によっては全くピンと来ないかもしれない。
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- 『赤い砂漠』の音と色の強度(2026.09.03)
- 『アニキ・ボボ』のドゥロ河(2026.08.30)
- 美術と映画をめぐって(2026.08.26)
- 岩下志麻『同志として妻として』を読む(2026.08.24)
- 『私の血に流れる血』の不可解な魅力(2026.08.18)


コメント