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2014年9月20日 (土)

人騒がせのポランスキー

朝晩肌寒くなったと思ったら、もう正月映画の試写が始まっている。最近見たのは、12月20日公開のロマン・ポランスキー監督の新作『毛皮のヴィーナス』。このポーランド出身の監督は、最初の『水の中のナイフ』(62)の昔から、人騒がせだ。

最近だと『戦場のピアニスト』や『オリバー・ツイスト』でやや退屈な歴史大河ドラマを作ったと思うと、『ゴーストライター』でどこか盛り上がらないサスペンスものを作り、『大人のけんか』の室内会話喜劇で大いに笑わせる。

どの映画も何かしらの大げさな「しつらえ」があり、観客はそれと中身の差異を楽しむ。今回もそれは同じで、舞台は全編劇場内で、最後までたった2人の密室劇だ。

オーディションを終わって夕刻に1人残る脚本兼演出家のもとに、強引にオーディションを申し込む女がやってくるという設定。そのうえ脚本はマゾの語源となったザッヘル=マゾッホの小説をもとにしたもの。当然ながら、2人はマゾの世界に入ってゆく。何という思わせぶりな「しつらえ」だろう。

それでもおもしろいのは、この2人の会話が予測不能だから。いかにもインテリの演出家といかにもおバカな女優志望の女が、なぜか次第に恋に落ちてゆく映画かと思うとそうでもない。

女のおバカぶりは、どこかわざとらしく、実は知的な態度を徐々に見せてゆくし、演出家はその女との会話がだんだんおもしろくなる。次第にリハーサルに近くなり、SMの世界になるかと思うと、演出家の恋人から電話が鳴って現実に戻る。

たえずはぐらかされながらも、見ているうちに演出家の気分になってゆく。それにしても、演出家を演じるマチュー・アマルリックはチビでちょっと長髪で、かつてのポランスキーそっくり。女を演じるのはポランスキーの妻のエマニュエル・セニエだし。

女が想像する演出家の恋人像がおかしい。衛星放送の「アルテ」を見て、ゴンクール賞を取る小説を読み、犬には「ブルデュー」(実際にはデリダ!)という名前を付ける。そもそもこの劇場は、「駅馬車」のミュージカル版が公演中止になったばかり。そして演出家はプラダのスニーカーを履き、「つまりは」pour ainsi direが口ぐせ。女はそれは、今なら「のたぐい」genreと言うわ、と返す。

だから本当のところはパリのインテリの習慣やフランス語のニュアンスがわからないと半分は楽しめないはずだが、それでも見終わると見ごたえがあった気になる。大胆な格好だが実は脱がないエマニュエル・セニエが、終盤にやっと胸を見せたのが良かったのか。

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