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2014年9月 6日 (土)

またベネチアに来てしまった:その(8)

外国の映画祭では、どうしても日本映画の評判を気にする。幸いにしてほぼ毎年日本映画はベネチアのコンペに出品されているが、今回は塚本普也監督の『野火』がコンペに選ばれた。

『野火』はこれまでの塚本作品と異なり、大岡昇平原作の戦争を扱ったシリアスな歴史ものだ。敵も味方も明らかでない中で、銃弾が飛び交い、内臓がはみ出す。あるいは友人の肉を食べ、自分の肉さえ食べる。塚本監督らしく過剰な表現のために、いささかホラーがかって見える部分もあるが、ずしんと重い力作に仕上がっている。

主人公を演じるのは塚本監督自身で、リリー・フランキーが怖い兵隊を演じる。塚本監督はベネチアではとりわけ高く評価されているため、観客の反応は上々だった。記者会見でも「これまでのコンペ作品で一番です」というイタリア人ジャーナリストもいた。翌日のイタリアの新聞は、絶賛と酷評に分かれていた。

そのほか日本関係では、ベネチア・クラシックという古い映画の修復部門で高橋治監督の『彼女だけが知っている』(60)が上映された。同世代の松竹の監督では大島渚や吉田喜重に比べて今では知られていないが、この映画を見ると相当の才能があったことがわかる。

小山明子演じる刑事の娘が父親の部下の男(渡辺文雄)と仲良くなるが、彼女が暴行事件に巻き込まれるというサスペンスもの。切り替えしを避けてミディアムショットに数人を入れ込む、ワイド画面を生かした大胆な構図が光る。人物造形もしっかりしている。いつも聞こえるジャズが少しうるさいか。

『自由が丘で』は韓国のホン・サンス監督作品だが、主演が加瀬亮。彼が韓国に知り合いの女性を訪ね、「自由が丘8丁目」というカフェに出入りするもので、大半が英語の作品。これまでのホン・サンスとはちょっと違い、時おり時間が前後する。だからわかったようなわかなわからないような話になるが、そこにホン・サンスらしいマジックが生まれる。ちなみに加瀬亮が読んでいる本は吉田健一の『時間』。

そしてラストにとんでもないどんでん返しが待っている。わずか66分の小品で、一見平板なドラマに見えながら、その奥は深い。韓国人同士の会話はもちろん韓国語だが、加瀬亮と韓国人の会話がすべて英語なので、外国語を話す時の独特の齟齬感も加わって、ホン・サンスの新境地が生まれた。

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