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2014年9月14日 (日)

ベネチアこぼれ話:その(2)

今年ベネチアに行って、一番感激したのは、加瀬亮さんと同じホテルでご挨拶したことでも、パーティでリリー・フランキーさんと5分間話したことでもない。ベネチアからパリに向かう飛行機の中で、マリア・デ・メデイロスさんの隣りに座って話したことだった。

飛行機で既に座席についていた私の隣りの席に、黒のサングラスをした黒髪の女性が現れたのは、出発間際だった。モデルかファッション関係かと思ったが、チラリとポルトガルのパスポートが見えたので、気になっていた。

私は飛行機の入口でフランスとイタリアの新聞を2紙ずつ取ってきたので、さっそく映画祭関係の記事を読み始めた。するとその女性はサングラスをはずし、私の読む新聞をちらりちらりと覗いているではないか。その大きな黒い瞳を見てすぐに、ああ、マリア・デ・メデイロスだとわかった。

コンペに出たアベル・フェラーラの「パゾリーニ」に出ていたので、昨日の正式上映に参加したのだろうと思った。こういう場合に、私は話しかける勇気はない。イタリアの「ラ・コリエーレ・デラ・セーラ」紙を広げたら、その記者会見の写真があって、彼女も大きく写っていた。彼女は横の席から乗り出すようにしてそれを見ようとしたので目が合って、「あなたですよね」と言うと、恥ずかしそうに笑って「ええ」という返事。

そこで私は思わず「あなたが演じたラウラ・ベッティには、何度かお会いしたことがあります」と言った。私は東京の大学で映画を教えているが、かつて新聞社に勤めていた時にパゾリーニ映画祭を企画し、ローマのパゾリーニ財団で彼女に会ったことを話した。

東洋のおじさんから急にそんなことを言われてびっくりした様子だったが、「私は会ったことはないのです。知っている人に話を聞いて演じたけど、どうだったかしら」と聞かれた。私は「彼女のエキセントリックな感じがよく出ていた」というと、笑い出した。

それからは、マノエル・デ・オリベイラの『神曲』で彼女を見たのが最初で、ポルトガル映画祭の時にカタログにモンテイロ論を書くためにDVDでジョアン・セザール・モンテイロの「シルヴェストレ」を見たことなどを矢継ぎ早に話した。向こうは東洋のマニアックな映画おじさんに驚いたのか、楽しそうに聞いていた(と思う)。

今思うと、彼女が一般的に有名なのはタランティーノの『パルプ・フィクション』だが、その映画のことは忘れていた。ポルトガルやイタリアの誰も知らないような映画の名前ばかり挙げた。

しばらくして疲れた様子だったので、話を止めた。飛行機から出る時に「次の映画を楽しみにしています」と告げ、荷物を受け取る場所でまた挨拶した。それだけの話だが、嬉しかった。荷物を待つ時に一緒に写真でもと思ったが、もちろんその勇気はなかった。

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