デジタルアーカイブとは
最近、よく「デジタルアーカイブ」という言葉を聞くが、本当のところよくわからないと思っていた。そんな時に福井健策著の『誰が「知」を独占するのか―デジタルアーカイブ戦争』という新書が出たばかりで本屋に平積みになっていたので、読んでみた。
一言で言うと、ヨーロッパではグーグルやアマゾンに対抗して、デジタルアーカイブが着々とできているが、日本は大幅に遅れているのでがんばらないと大変なことに、という話。
「ユーロピアーナ」Europeanaというポータルサイトがあって、欧州各国のデジタルアーカイブをつなぐものだという。現在、3000万点の書籍、絵画、動画などが公開されている。例えば「tokyo」と入れてみたら、5717件がヒットした。そのうち一つを見たら、バイエルン州立図書館にある明治時代の地図の画像だった。
日本で国立国会図書館を中心にデジタル化したのは、250万件弱で、うちネット公開されているのは50万点弱という。これは2009年の著作権法改正で、国会図書館はその所蔵資料を保存のために自由にデジタル化してよいことになったことが大きかったらしい。さらに2012年の改正で、入手困難な資料に関しては国会図書館がデジタル化したものを全国の公共・大学図書館に配信できるようになった。
デジタルアーカイブ化での問題は「ヒト・カネ・著作権」。日本の国立公文書館の人員は50人に満たないが、米国は2500人。これはフィルムセンターなども同じ。もともと文化予算が主要先進国に比べて極端に少ないのだから。
著作権については、権利者不明の作品、つまり「孤児作品」が多すぎることが挙げられている。明治期の著者7万にについては、6割は連絡先はおろか没年もわからないから、著作権の保護期間がどうかもわからない。NHKアーカイブズは11年前の開館から20名の専従チームで権利処理をしているが、処理後にネット公開できたのは全体の1%。
こうなると、著作権法をさらに緩やかにして、どんどんデジタル化を可能にし、権利者が名乗り出た時点で解決する方向にもってゆくしかないという。もちろんデジタル化の国家予算を現在の道路並みの数兆円にしていかないと、知的財産のインフラ構築はできない。これが日本文化の国際発信につながる。
これがおおむね著者の主張。さてもしすべての文献がデジタル検索できたら、文系の学者の書く論文の半分以上は意味がなくなるだろうな。文献を調査すること自体を研究と称してきたのだから。学生の卒論だってずいぶん変わるだろう。現に「朝日」「読売」の創刊以来の記事検索機能だけで、ずいぶん変わっきた。
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