旅行中の読書:『ジャーナリズムの現場から』
「旅行中」といっても、もはや1ヶ月前になるが、すいすいと読めた本が大鹿靖明編著の新書『ジャーナリズムの現場から』。この著者は「朝日新聞」の現役記者で、私より少し若い。ホリエモンに取材した『ヒルズ黙示録』などこれまで単行本を何冊か出している人だ。
今、「朝日新聞」の世間の評判は極めて悪い。8月末に出たばかりの本で、著者の肩書が「ジャーナリスト」と書かれていて、「朝日」の名前がないのはそのせいかと思ったが、読んでみると理由はほかにあった。
この本は大鹿記者が尊敬する10人の現役ジャーナリストに話を聞いて構成したものだが、新聞社の記者はその半分もいない。多くはフリーでおもしろい本を出し続けているジャーナリストだ。新聞記者でも、いい記事は書くが新聞社という体制に疑問を抱いている人ばかり。
つまりは、全体として新聞社の堕落ぶりを浮かぶ上がらせる内容になっている。著者は「はじめに」に書く。
「はじめに全国紙や放送局の首脳や経営幹部の間で、専制政治、官僚主義、不正行為が広がっていった。経営陣の目を覆わんばかりの劣化や堕落は、やがて組織を汚染し、中間層に伝染し、ついには現場をむしばみつつある。
あれだけ官僚の天下りや政治家の世襲を紙面で批判しておきながら、経営幹部は平気でキー局や仙台あたりの地方局に天下り、自身の子女を勤め先やそのグループ会社に就職させてしまう。しかも、それを恬として恥じない。まるで労働貴族ならぬ「報道貴族」である。こんな上層部の倫理観や使命感の欠如が、組織を汚すのだ」
もちろんこれは読売のナベツネに始まって、それを真似した朝日の箱島、日経の鶴田、NHKの海老沢といったトップがいた頃から始まった状況を指す。その頃は自分も「朝日」にいたので、手に取るようにわかる。
インタビューでは、随所におもしろい指摘がある。例えば東京新聞の長谷川幸洋論説副主幹は、「支局時代に言われるのは、「取材先から信頼される記者になれ」と。これはまったく間違いですね。本当は「読者に信頼される記者になれ」ですよ。取材先に信頼されてどうするの?ポチになるだけじゃないの」
ほかにも興味深い内容がたくさんあるが、あとは読んでもらうしかない。ちなみにこの長谷川氏は「私は昼飯はいつも必ず、1人で食べます。夜は社内の人間と飲みにいかない」。これは私と同じ。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 『目まいのする散歩』を読んで(2024.11.01)
- イスタンブール残像:その(5)(2024.10.06)
- イスタンブール残像:その(4)(2024.10.02)
- イスタンブール残像:その(3)(2024.09.26)
- イスタンブール残像:その(2)(2024.09.24)
コメント