孤独死を見送る映画
『おくりびと』(08)のヒットからか、死者に係わる職業をテーマにした映画が増えたような気がする。『おくりびと』は葬儀屋の話だが、『アントキノイノチ』(12)は遺品整理業の話だった。1月公開の『おみおくりの作法』は、題名は邦画みたいだが、舞台はロンドン南部で、孤独死の人々の葬儀をする民生係の話。
中年男のジョン・メイは、1人で亡くなった人にふさわしい宗教で葬儀を依頼し、弔辞まで書く。できるだけ家族にも連絡するが、多くはメイだけが参列する。そして遺骨を順番に公園に撒く。
小柄で毎日同じ背広を着るジョン・メイ役のエディ・マーサンが素晴らしい。最初は彼だと気づかずにドキュメンタリーだと思ったくらい。それほど映画は固定ショットで彼が見る世界を淡々と捉えてゆく。
その毎日を見せられてゆくうちにちょっと退屈だなと思っていたら、メイは仕事が遅いとクビになり、最後の仕事であるビリー・ストークに取りかかるあたりから、画面の調子が変わる。
ストークを知る人々を追い続けるうちに退職の日が来るが、メイは背広を脱いでセーター姿で探索を続ける。そして出会うストークの元恋人や娘。このあたりからどんどんおもしろくなってゆく。
最後までどんな結末かわからないが、見終わった時にはちょっと作り込み過ぎかもと思った。それでも後で思い出すと、ジョン・メイの人生が妙に味わい深いものに見えてくる。後を引く映画かもしれない。
今や孤独死は世界的なテーマなのだろう。数年前にNHKの特集「無縁社会」が話題になったし、朝日でも「弧族の国」という連載があった。だから日本にも同じような職業の民生係がいるのだろう。この映画のうまいところは、死んだ人々のそれぞれの人生を見せながらも、主人公の孤独な人生を中心にしているところだろう。
それにしても主人公のように、毎日缶詰のシーチキンと食パンに珈琲を食べている人はイギリスに本当にいるのだろうか。彼が訪ねた人の1人も同じ食事を出してくれたし。ストークの元恋人から魚をもらうが焦がし過ぎて食べられなかったり、ストークを真似て歯でベルトに食いつこうとしたり、ところどころに不思議な笑いもあるので、この食事もイギリス的なユーモアなのかもしれない。
ロンドン南部の寂しそうな街並みや元恋人の住む港町など、どこも冴えない風景ばかりで、この映画にピッタリ。監督はウベルト・パゾリーニというイタリア出身だが、この味わいはまさにイギリス映画そのもの。
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