« 万歳三唱は誰に向かってか | トップページ | 今年一番つまらなかった映画 »

2014年10月19日 (日)

『悪童日記』の不気味な兄弟

アゴタ・クロストフの小説『悪童日記』は、私が仕事を始めた頃に随分流行っていたので、読んだ記憶がある。その時は随分陰惨な印象を持った。今度映画化されたというので見に行ったら、何とフランス語ではなく、ハンガリー語の映画だった。

アゴタ・クリストフはハンガリー出身で、スイスに渡って自分の幼小期を描くこの小説を仏語で書いている。だからこの映画はその起源に遡ったものと言えなくもない。監督もハンガリーのヤーノシュ・サース。

それにしてもそこに描かれる兄弟の姿の印象的なことといったら。第二次世界大戦中に、彼らは両親によって祖母のもとに預けられる。この祖母には孫への愛情というものが全くない。兄弟はその悲惨の極致から世界を見て、その事実をノートに書きながら、生き延びてゆく。

最初は太った強欲な祖母がとんでもなく意地悪だし、兄弟は体を鍛えるために自ら殴り合ったりするので見ていてつらかったが、この2人が何としてでも生き延びる姿にだんだん心を奪われてゆく。

兄弟に親切な女が実はユダヤ人嫌いだったり、祖母にもいいところがあったり、母が父親を裏切っていたりと、もはや絶対的な善も悪もない。兄弟は「自分たちが生き延びる」というそのことだけを目標に、最後は母や父も乗り越えて、生きてゆく。

最初は不気味に思えた兄弟が、最後には正しいような気がしてくる。彼らが書く日記とそこに張り付ける写真や虫がその証拠だ。残酷なシーンはあえて写さないが、根底にある徹底的な絶望感が静謐な画面から伝わる。見終わってパンフを見たら、撮影監督がミヒャエル・ハネケとよく組んでいるクリスティアン・ベルガ―だとわかって納得した。

兄弟の父親役が、『ヒトラー~最後の12日間~』(2004)でゲッペルスを演じたウルリッヒ・マテウスで笑ってしまった。これは、まさにヒトラーの侵略から逃れて生き延びようするハンガリー人たちの物語なのに。

この映画を見ていて、イタリア映画『風の痛み』(01)を思い出した。これもアゴタ・クロストフが原作の映画で監督はイタリアのシルヴィオ・ソルディーニだが、暗い幼年時代の描写が妙に似通っていた。秀作だったが、全く当たらなかった。

|

« 万歳三唱は誰に向かってか | トップページ | 今年一番つまらなかった映画 »

映画」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/537538/60501163

この記事へのトラックバック一覧です: 『悪童日記』の不気味な兄弟:

« 万歳三唱は誰に向かってか | トップページ | 今年一番つまらなかった映画 »