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2014年11月19日 (水)

『映画の奈落』に震える

世の中で高倉健の訃報が流れていた時、私は伊藤彰彦著『映画の奈落』を読んでいた。これは東映の『北陸代理戦争』(1977)の顛末を追ったものだが、東映任侠路線のスターが亡くなった時に、その後の実録路線のなれの果ての、北陸ヤクザの映画について考えているのも妙な感じだった。

この本は映画会社に勤める友人から勧められたものだが、確かにおもしろい、というより震えが来た。副題は「北陸代理戦争事件」で、この映画が公開されて2か月後に、モデルとなったヤクザが実際に殺された事件を指す。

映画の題名は知っていたが、見ていなかった。もちろん事件のことは知らなかった。本を読み始めると、いきなり「福井新聞」の「川内組組長けん銃で射殺さる」という社会面の1ページ記事の写真が目に入る。その事件の細部が描かれ、このニュースが東映京都を震撼させた様子が書かれている。

そしてその4か月前にモデルとなった川内弘に、この映画の脚本家の高田宏治が行った取材インタビューのテープが再録されている。それはかつて川内が半殺しの目にあった時の話だった。その後に、それをもとにした映画の一場面、松方弘樹演じる主人公の川田=川内が雪の中で殺されそうになる場面が記述される。

ここまで読んで興奮してきた私は、読むのをやめてこの映画のDVDをアマゾンに発注した。翌日に届いたDVDを見ると、もう血沸き肉躍る状態になった。雪に囲まれた北陸での残酷なヤクザの実態が、松方弘樹の渾身の演技で伝わってくる。『仁義なき戦い』以降の実録路線を作ってきた、深作欣二らしいドキュメンタリータッチも生きている。

そして本に戻って読み始めたのが昨日の朝だが、通勤の往復の電車と授業の合間で読み終えてしまった。久しぶりに巻を置くあたわず、という感じで、授業をしながら、頭の中は北陸ヤクザで一杯だった。昔、ヤクザ映画を見終わると、みんな高倉健のように風を切って歩くという話があったが、私には突如として松方弘樹=川田=川内が乗り移ってしまった。「おめえら、言うことをきかんと雪に埋めるでー」

この本でわかったのは、当時のヤクザ映画は、本物のヤクザに入念に取材して脚本を書くばかりか、撮影も手伝ってもらっていたことだ。プロデューサーがこの映画の撮影前に脚本を川内に見せると、「わしの生きざまがようでとる」と絶賛して、ロケ隊の面倒を見るように指示する。ロケ隊の旅館も川内の紹介だし、冒頭とラストの有名な「顔だけ出して雪に埋まっている人間」を取るための重機の手配も川内組に頼んだという。

そのほかビックリする細部が満載だ。俊藤浩滋といえば、ヤクザ上がりで東映の任侠路線を引っ張った大プロデューサーだが、川内を殺させた山口組の菅谷政雄の幼馴染とは知らなかった。この本についてはもっと語りたいが、それは後日。ひたすら愚直で耐える男を演じた「健さん」よりも、今の気分は北陸ヤクザ。

追記:なぜか松方弘樹を渡哲也と書いていて、コメントのご指摘で訂正した。

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コメント

渡哲也ではなく松方弘樹じゃなかったでしたっけ?

投稿: ウェルテル | 2014年11月19日 (水) 18時06分

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