『バンクーバーの朝日』への微妙な違和感
石井裕也監督の新作『バンクーバーの朝日』を劇場で見た。もちろんおもしろかったが、どこか違和感が残った。それは「感動的な実話」にしなかったからではない。
山田洋次や降旗康男ならば、涙が流れて止まらないような感動ドラマに仕立てただろう。そうすることが可能なドラマチックな題材だからだ。
太平洋戦争開始直前のカナダのバンクーバーを舞台に、日系2世の野球チームが差別に耐えながら勝利を重ねてゆく。石井裕也監督はその姿をいかにもさらりと描いた。とりわけ野球チームのメンバーを演じる妻夫木聡や亀梨和也、池松荘亮といった俳優陣の寡黙な姿がいい。
一番の違和感は、栃木県足利市に作ったバンクーバーの街並みが、芝居の書き割りのようでしっくりこなかった。丁寧に作られているところも含めてどこか和風で、カナダの乾いた空気が伝わってこない。『舟を編む』のちょっと昭和な感じのするいい感じが、そのままカナダになってしまったみたい。
妻夫木の妹を演じる高畑充希や母親の石田えりは、リアルな生々しさが伝わってきてよかったが、父親役の佐藤浩市を始めとして男性脇役陣がいささかパターン化されすぎていたように思えた。
チームの監督役の鶴見辰吾を始めとして応援する大人たちを演じる光石研、大杉蓮、岩松了、田口トモロウ、ユースケ・サンタマリア、徳井優といった性格俳優が揃っていただけに、かえって一発芸のように出てくるさまに違和感があった。
あるいは教師役の宮崎あおいや娼婦役の本上まなみも出番が短すぎて妙な感じが後を引いた。だから全体としては、作りものの印象が残った。李相日監督の『許されざる者』もそうだが、自主映画でいい味を出した若手監督が突然大作を任された時に起こることかもしれない。
個人的にはこの監督なら『川の底からこんにちは』が一番だし、最近なら『舟を編む』や『ぼくたちの家族』の方がずっと好きだ。
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