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2014年12月15日 (月)

『その場所に女ありて』に漂う諦念

私の学生が企画・運営する映画祭「ワーカーズ2014」がこの週末に始まった。学生はアンケートを配ったりパンフレットを売ったり忙しく働いているが、私は暇なので4本も見た。『川の底からこんにちは』『その場所に女ありて』『浮き雲』『この自由な世界で』。

実を言うと、『この自由な世界で』以外は初めてだった。一番驚いたのは、鈴木英夫監督の『その場所に女ありて』(1962)で、評判は聞いていたが予想をはるかに上回るおもしろさだった。

広告代理店の西銀広告を舞台に、司葉子演じる営業部の矢田律子が活躍する物語だが、とにかく全体に暗く澱んだものがある。男性たちは女性をバカにし、女性社員たちは病気の男に騙されたり、副業として社員に金を貸していたり。律子の姉(森光子)はダメ男(児玉清)に貢いで、律子に金を借りる。

働いて7年目の27歳の律子は、会社の期待も大きいベテランで、クライアントを回り、巧みに広告を取る。ある製薬会社の新薬発売で、ライバルの大通広告と一騎打ちになるが、その担当の坂井(宝田明)に惚れてしまう。坂井は何と西銀広告の社内デザイナー(浜村純)に秘密で大金を積んでデザインを依頼する。

ある種の諦念を持った感じですべてを冷静に判断し、毎日を淡々と生きてゆく律子の姿がすばらしい。酒を飲み、煙草を吸い、麻雀も辞さない感じは、現代女性以上に男性的だろう。1962年の広告の世界が、ほとんど今と同じなのにも驚く。クライアントとの関係やデザイナーと営業部の確執など。こっそり律子に助けてもらって、広告の賞を取って有頂天になるデザイナー(山崎努)のような存在は、今でもどこにでもいる。

1962年当時の東芝ビルや和光など銀座の風景が見られたのも嬉しかった。あちこちに上がるアドバルーンが昭和の感じだが、戦後17年でもはや現在に近い風景ができあがっている。それは社内の雰囲気も同じ。西銀広告は全国紙がバックというから朝広か大広で、大通広告は大きくモダンなオフィスからして電通という感じ。

ラストに、自分を裏切った坂井からの会ってくれという電話に律子は「街でばったりあったら、お酒でも飲みましょう」とかわす。そのカッコよさに惚れ惚れした。

資本主義や人間関係の本質を見据えたような演出を見ると、監督と共同脚本の鈴木英夫がいかに非凡な存在かがわかる。ほかの映画も見なくては。

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