ティム・バートンが描く「アート」と「イラスト」の間
1月23日公開のティム・バートン監督『ビッグ・アイズ』を見て驚いた。『アリス・イン・ワンダーランド』のような、彼の得意とする壮大なファンタジーではなく、実話をもとにしたリアルなドラマだったからだ。
映画は1958年の北カリフォルニアから始まる。娘を連れて車で夫から逃げたマーガレット(エイミー・アダムス)は、公園で絵を描いて売っている時に、パリの風景画を売っている男ウォルター(クリストフ・ヴァルツ)に出会う。
2人は結婚するが、ある偶然からマーガレットの絵が人気が出る。ウォルターはそれを自分が描いたものとして売り出すことに成功し、金を儲けてセレブの世界に入ってゆく。ある時マーガレットは夫のウソが許せなくなり、裁判を起こす。
どこにもファンタジーはない。マーガレットが夫に騙されながら必死で絵を描く姿を見ながら、早く別れればいいのにと思うが、豪邸を手に入れて満足な感じも見せる。すべてを夫に従う男性中心の社会が当時のアメリカ社会にあって、事実を忠実に描いたのだろう。マーガレットが「エホバの証人」に入信するあたりも。
この映画を見て、まず面白いのはウォルター役のクリストフ・ヴォルツの詐欺師ぶりだ。罪の意識を全く見せず、画廊を作ったり、絵を買えない大衆のためにポスターや絵葉書を売ったりして、陽気にお金を稼ぐ怪演ぶりを見せる。一方、エイミー・アダムズは素直だが内気で絵を描くことしかできないアーティスト像を巧みに演じている。
個人的にそれよりも興味深かったのは、マーガレットの描く大きな目の子供の絵が大人気になるのに、ニューヨークタイムズの老美術評論家(テレンス・スタンプがカッコいい)などのプロが疑問を呈すところ。確かにこの時代のアメリカはポロックなどの抽象表現主義が主流だから、あのような絵は評価されにくい。
というよりも、ああいう絵はいつの時代だって「イラスト」としての人気は出ても、「アート」として評価はされない。ヒロ・ヤマガタの点描画やラッセンのイルカの絵と同じく、「売り絵」と呼ばれる。ポイントはマーガレットの絵がラッセンなどをどこか超えている点だ。
その孤独な表現には、どこかに本物がある。日本だと奈良美智にかなり近い。奈良の場合はインスタレーションなどを加えて、より「アート」につくろっているけれど。あるいはタイプは違うが、バルチュスだってそんな感じがする。
ティム・バートンは、「アート」としての評価は低いが魅力のあるマーガレットの絵のような存在を擁護したくて、こんなリアリズムの映画を作ったのだろう。そんな思いが伝わってきた。だからその絵を売り出すことに成功したウォルターもどこか憎めない詐欺師として描いたのではないか。
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