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2015年1月 7日 (水)

年末年始の読書:『33年後のなんとなく、クリスタル』

田中康夫の『なんとなく、クリスタル』は1980年、つまり私が大学に入学した年に「文藝賞」を受賞して話題になった本だ。そして去年末に『33年後のなんとなく、クリスタル』が出版された。高橋源一郎や浅田彰を始めとする私が信頼する人々が絶賛しているので年末に読んでみた。

一言で言うと、個人的にはなかなかおもしろかった。私より5歳年上とはいえ、ほぼ同じ時代を生きてきたわけだから。ただし、大学に入った年にこの本を読んだ時の違和感は激しかった。

今から思うと、消費資本主義の最先端を自慢するような内容に、ひたすら腹がたったのだと思う。こちらは田舎の大学だったし、何より「文学」というものを強く信じていたから、「お洒落をして女の子を誘ってデート」のような内容が「文学」としてまかり通ることが理解できなかった。

その後田中康夫は「ペログリ日記」で話題になってテレビにも出るようになり、阪神大震災のボランティアで話題になったかと思ったら、長野県知事になり、その後国会議員にまでなった。彼のことが嫌いだったはずの私は、いつの間にか『噂の真相』の「ペログリ日記」を楽しみに読んでいた。彼のグルメ批評はかなり信頼のおけるものだった。

つまりは、私自身がこの33年の間にかなり田中康夫化していたわけで、今回の小説で主人公が由利と再会する青山の「ローブリュー」のバスク料理を自慢げに書いているのを読みながら、バスク料理ならもっといい店があるのに、と心の中で張り合っている自分がおかしかった。

「ローブリュー」も最初は店名を明かさないで書く。もともと33年前の本も、最先端の情報をちらつかせながら見え隠れさせる、スノッブな部分があった。今回もそれは続いている。だから本の帯に斎藤美奈子が「彼はぜんぜん懲りてない。激動の同時代を生きてきた同世代の富裕国民に贈る「“自伝的”風俗」小説」という言葉がぴったりだ。

そしてその世代は、今やそれなりに社会のことを考えている。主人公は、少子化社会で人口が減るのは避けられないと主張する。

「人口六千人前後のフランスやイタリアの規模でも持続可能な日本を目指してみては。両国ともに自国内での農業生産を維持しつつ、モードに象徴される高付加価値のブランドで地歩を固めているではないか。/量の拡大や規模の維持への拘りを捨て去り、質の充実へと発想を変え、人間の体温が感じられる地域社会の中で、食生活を始めとした心豊かな日々を送る」

フランスやイタリアを例に出すところが「富裕国民」の田中康夫らしいが、ここで言っていることは前にここで書いた水野和夫著『資本主義の終焉と歴史の危機』の答えとほぼ重なってくる。

小説については後日書くが、私にとってはこのことが一番興味深かった。

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