年末年始の読書:『億男』
そもそも今回の年末年始はトマ・ピケティの『21世紀の資本』を読むことが最大の目標だったにもかかわらず、そちらはあまりに分厚く、くどいのでまだに3分の1ほどしか読み終わらず、その合間に読みやすそうな本を読んでいた。その一冊が、川村元気著『億男』。
川村氏と言えば、東宝の若手映画プロデューサーとして有名で、『告白』『悪人』『モテキ』『寄生獣』などの製作でしている。そのうえ、『世界から猫が消えたなら』という小説を書き、対話集『仕事。』なども出版しており、30代半ばのいわゆる「才人」の1人。
彼のプロデュースした映画はおおむね見ていたが、本は読んだことがなかった。今回初めてこの本を読んだが、結論から言うと、小説としてはいま一つだった。設定としてはおもしろいけれど、小説の楽しみがなく、アイデアを見せられている感じ。
昔の映画は物語だったが、今の映画はネタ化しているとよく言われるが、それはそのままこの小説に当てはまるのではないか。いかにもヒットメーカーのプロデューサーが書いた小説という感じで、読み終わるとネタの集積に思えた。
借金を背負って妻子に去られた一男は、昼間は図書館の秘書として働き、夜はパン工場のベルトコンベアの前に立つ。ある時急に宝くじで3億円があたり、その使い方を考えるために、学生時代の友人、九十九に会いに行く。
九十九はお金儲けのための怪しげなセミナーを主宰して大儲けしていたが、一男に会うと、いつの間にか3億円を奪っていなくなる。それから九十九を探してその知り合いを訪ねる一男の旅が始まる。彼の友人は、みな不思議な人生を送っていた。
そうやって読者は一男と一緒に「お金とは何だろう」と考える仕組みだが、何だかわざとらしい。どこか説教臭くさえある。最後は妻子にたどり着くところも、泣かせるメロドラマを見ている感じか。この人のプロデュースする映画には今後も期待したいが、小説は私には向かないようだ。
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