今年最初の映画:『エレナの惑い』
正月も3日になると、さすがに酒盛りと読書ばかりでは退屈してくる。ずんと来る映画でも見ようかと思って選んだのが、上映中の『エレナの惑い』。かつて『父、帰る』(2003)が話題になったアンドレイ・ズビャギンツェフ監督の2011年の作品だ。
見終わって、暗澹たる気分になった。何となく、人類の終わりを見るような感じと言ったらいいのか。家の外の鳥の声や遠くの物音が、妙に体に沁みた。
映画は、超高級マンションに住む中年夫婦の毎日から始まる。エレナは裕福な老いた夫を支えながら生きているが、気がかりは自分の前夫との息子やその子供。夫も前妻との娘が心配だ。夫が病気で倒れた時、妻は自分の息子に財産を残すために夫を殺そうとする。
どこにでもあるような物語だが、いつの間にかお金を媒体にした人間の原罪を見せられたようで、崇高な気分にさえなる。そこには悪人も善人もいない。普通の人々が懸命に生きているだけだ。世代を重ねるごとにだんだん愚かになりながら。
冒頭の室内から見る日の出のシーン。妻が息子に会いに行く時の銀行や列車の無機質さ。息子の家のそばに立つ3基の原子力発電所。夫が通う静かなスポーツジム。ラストの部屋から見る夕日。その端正な映像の積み重ねに、時おりフィリップ・グラスの畳み掛けるような音楽が重なる。
たぶんロシアのような急激な資本主義化が進んだゆえの、究極の風景なのではないか。生活を楽しむ中間層がおらず、大金持ちと貧乏人の両方がお金だけを頼りにする社会。それがロシアならではの寒々とした荒涼たる風景に重なってゆく。
タルコフスキーやソクーロフらの伝統を継ぐ、映画の力を絶対的に信じる監督だと思った。となると、同時に上映されている同じ監督の『ヴェラの祈り』(2007年)も見るべきか。こちらは157分もあるし、大学教授が妻に不倫をされる話だけど。
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