年末年始の読書:『資本主義の終焉と歴史の危機』
新しい年が始まった。このブログでは普通は政治も経済も語らないが、大著『21世紀の資本』の読書中でもあり、あえて経済の話をしたい。大晦日の「朝日」の一面は、来年度の税制改革が企業や富裕層を優遇して個人消費の底上げを図る方向に決まったことが報じられていた。
企業向けの減税以上に驚いたのは、子供や孫に資産を贈る場合の税優遇策だ。既に住宅や教育資金の贈与に非課税枠があるが、結婚や子育て費用にも使えるようにするという。まさに、金持ち家族は子孫も金持ちのままにする、格差作りのための税制だ。
このような贈与は信託銀行が管理するというから、もともと信託銀行に縁がある富裕層だけが関係がある。そのうえ銀行も儲かるし。
そもそも個人消費を増やす必要があるのか、という疑問を持っていたら、年末に読んだ水野和夫著『資本主義の周縁と歴史の危機』にその答えがあった。一言で言うと、もう資本主義は終わりに近づいているから、そんな努力は無駄であるという内容だった。
日本は世界で最も低金利となった。これは資本投下の利潤がゼロになることだから、資本主義の終わりを意味する。「資本主義は「中心」と「周辺」から構成され、「周辺」つまり、いわゆるフロンティアを広げることによって「中心」が利潤性を高め、資本の自己増殖を推進してゆくシステムです」
「本来ならば、「地理的・物的空間」での利潤低下に直面した1970年代半ばの段階で、先進各国は資本主義に代わる新たなシステムを模索すべきでした。/しかし、アメリカは、近代システムに代わる新たなシステムを構築するのではなく、…「電子・金融空間」に利潤のチャンスを見つけ、「金融帝国」化してゆくという道でした」
「資本主義は「周辺」の存在が不可欠ですから、途上国が成長し、新興国に転じれば、新たな「周辺」を作る必要があります。それが、アメリカで言えば、サブプライム層であり、日本で言えば、非正規社員であり、EUで言えば、ギリシャやキプロスなのです」
「こうした国境の内側で格差を広げることも厭わない「資本のための資本主義」は、民主主義も同時に破壊することになります。民主主義は価値観を同じくする中間層の存在があって初めて機能するのであり、多くの人の所得が減少する中間層の没落は、民主主義の基盤を破壊することにほかならないのです」
格差社会は民主主義を破壊するという恐ろしい内容だ。この本では、ではどうすればについてのヒントがいくつか書かれているが、それについては後日書く。
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