『KANO』のコテコテな感動
薄いお味噌汁のような、品のいい『深夜食堂』を見た後のせいか、劇場で見た台湾映画『KANO-カノ-1931海の向こうの甲子園』のコテコテな演出が、ずっしりとこたえた。3時間5分の長尺で、監督のマー・ジーシアンは俳優出身で映画初監督というが、とてもそうは思えないほどの出来ばえ。
私は個人的に海外に住む日本人の話が妙に気になって、映画はだいたい見に行く。ブラジルやアメリカ移民の話も好きだが、今回は台湾の野球チームを甲子園に連れて行った日本人の話というので、見る前から心が躍った。
戦前、台湾の嘉義農林学校の野球部に日本人監督・近藤(永瀬正敏)が現れて、2年後の1931年に甲子園で決勝戦を戦うまでを、まさに正面から描く。コテコテのど根性ものだが、見ていると何度も不覚の涙を流してしまう。
最初は一勝もできないチームが、近藤の指導で少しずつ上達してゆく。そして台湾の全島大会で優勝して甲子園行きが決まる。そこまでで2時間くらいだが、優勝した瞬間には嘉義の街で待つ人々と一緒になって泣いた気がした。
投手の呉明捷を演じるツォウ・ヨウニンを始めとして、野球選手からオーディションで選んだという、カタコトの日本語を話す選手たちが本当にリアルだ。球場も街の中も、大きなセットがきちんと組まれていて、日本とは全く違う台湾の空気が流れる。何百人と登場する台湾の人々や日本人も本当に戦前に生きているようだ。
外国で撮られた日本人が出る映画ではほとんど初めてといっていいほど、日本人が見ても全く違和感がないように日本人や日本社会が描かれている。あまりに日本人に好意的なので、台湾で批判されないかと心配にさえなってくる(実際にその批判はあったという)。
そして何より野球の試合をたっぷり見せてくれる。3時間のうち2時間は試合のシーンで、選手たちが勝ったり負けたりするさまを、スローモーションと壮大な音楽でこれでもかと見せる。それがあまりにも素直な見せ方なので、かえって見ていて気持ちがいい。
戦前のカナダの日本人野球チームを撮った『バンクーバーの朝日』の抑制の効きすぎた演出に比べて、この映画には本物の戦前の雰囲気があったし、何より野球をたっぷり見せてくれたと思う。こんなストレートな映画は今の日本人監督には撮れない気がする。
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