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2015年2月23日 (月)

『アメリカン・スナイパー』のマッチョさ

公開2日目にイーストウッドの『アメリカン・スナイパー』を見た。『ジャージー・ボーイズ』から数か月しかたっていないのに、何とハイペースなのだろう。今年85歳なのに。そのうえ、イラク戦争がテーマである。

見終わった印象は、久しぶりにイーストウッドらしいアクション映画を見た、というもの。マッチョな英雄ものと言ってもいい。これほどの血沸き肉躍るアクションは、『硫黄島からの手紙』(06)以来ではないか。

もともと『荒野の用心棒』や『ダーティハリー』の俳優として名を上げた人だから、銃を持って敵を倒すヒーローを描くことはお手のものだ。それが今世紀になって『ミリオンダラー・ベイビー』(04)あたりから妙に倫理的になり、アクションよりも、英雄のみじめさを描くようになった。

今回は、イラク戦争で「伝説」と呼ばれた狙撃主クリス・カイル(ブラドリー・クーパー)が主人公。何百メートル先の敵を撃ち、後半は敵の狙撃主との対決になる。終盤の砂塵の中での銃撃戦など、めまいがするほど。見ていると、どうしてもアメリカ軍を応援したくなってくる。

もちろんイーストウッドだから、それでもヒーローの迷いを描く。爆弾を抱えて迫ってくる子供を撃つべきか、アメリカに待つ妻子のために帰るべきか。それでも国を守るためと信じて、カイルは4回も戦場に行く。

帰ってくれば、戦場の爆音が頭を支配し、ふっと妻や家族のことを忘れてしまう。あるいは急に怒り出す。帰還した負傷兵たちと時間を過ごすことでようやく心の安定を見出したと思ったら、悲劇が待っている。

アメリカではこの映画を巡って賛否両論だと言う。確かに『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』の2部作のように、敵の立場に立った視点はない(敵の狙撃手は少し描かれている)。現在進行中のテーマだけに、これがイーストウッドのなしうる最大の配慮なのだろう。

その意味では、あえて火中の栗を拾うようなテーマに挑戦したイーストウッドの勇気は、『硫黄島』2部作以上に讃えられるべきだろう。さて、あと数時間後に発表されるアカデミー賞でこの作品は選ばれるか。もともと共和党系が多く、保守的な富裕白人男性が大半のアカデミー賞の会員層だから、賞を取っても取らなくても騒ぎになるだろう。作品賞や主演男優賞の授賞の瞬間は、ちょっと中継で見たい。

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