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2015年2月18日 (水)

『マンゴーと赤い車椅子』のディテール

アカデミー賞候補の『博士と彼女のセオリー』を見て、ホーキング博士の車椅子が1960年代からどんどん進化してゆく様子がわかったけれど、今度は現在の車椅子に乗る人々の生活の細部を描く映画を見た。劇場公開中の仲倉重郎監督の『マンゴーと赤い車椅子』。

冒頭、力強く車椅子を漕ぐ主人公(秋元才加)が正面から写る。そして15年前というクレジットが入り、少女が真っ赤なマンゴーの実を持っている姿が見える。それだけで映画の中身がわかるような、ある意味では紋切型の始まり。

物語は、事故で脊髄損傷になって入院した主人公の女性が、車椅子に初めて乗ることになり、少しずつ慣れて日常生活を始めてゆく様子を描く。そこに病院の患者さんたちや看護師、理学療養師に加えて、両親や恋人などが絡み合う。

不倫相手だった恋人との別れや、新しい相手との出会いなど、描き方は何とも古めかしい。昭和の頃の品のいいテレビドラマを見ているようだ。それでもこの映画が現代人の心に響くのは、きちんと人物を捉えているからだろう。

とりわけ主人公が少しずつ病院の環境になじみ、車椅子に乗る訓練に前向きになってゆく過程がきちんと描かれている。考えてみたら当たり前だが、車椅子を動かすにはかなりの腕力が必要だし、段差を超えるにはある種の技術も身につける必要がある。

主人公のまわりの脇役もいい。若い元気な女性患者役の吉岡里穂や、全く動けない妻(松金よね子)を介護する夫(ベンガル)の存在が生きているし、主人公の母役の愛華みれのおばさんぶりや、祖母役の三田佳子のボケぶりも悪くない。

主人公が自分で選んだ赤い車椅子を手に入れるシーンは、見ていて喜びが伝わってくる。1年後の映像として、主人公が車椅子に乗りながら農協で牛にエサをやるシーンが写る。電話がかかってきて、自分一人で車椅子を畳んで赤い車に乗るシーンに、何とも嬉しくなる。ぴあの満足度調査で4位というのもうなずける。観客の感性はそれほど昔と変わっていないのかもしれない。

監督は自らが車椅子の生活を送っているという。確かに車椅子をめぐるディテールの描写は、実生活に裏打ちされたものだろうし、そこがこの映画のおもしろいところだ。私は幸いにして今のところ五体満足で、病気もない。しかしそれがいつ突然に壊れるかはわからない。そんなことも考えた。

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