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2015年2月 3日 (火)

『サンドラの週末』に泣いて笑う

5月23日公開のダルデンヌ兄弟監督『サンドラの週末』を見た。主演のマリオン・コティヤールが、この映画でアカデミー賞の主演女優賞にノミネートされていることから、内覧試写があった。フランス語の映画で主演女優賞は極めて珍しいが、彼女は既にその賞を『エディット・ピアフ』で受賞している。

もともとダルデンヌ兄弟の映画はシンプルな設定が多いが、今回の新作はさらに単純なのに、見ているうちにぐいぐい引きつけられて、最後には泣いて笑った。原題はDeux jours, une nuit(2日と1晩)で、確かに主人公が自宅付近で二日間と一晩を過ごすだけ。

サンドラは、土曜の朝に同僚からあなたはクビになると告げられる。病気で休んでいたが、復帰直前に、同僚たちは会社の業績の悪化から「自分たちのボーナスなしか、サンドラを辞めさせるかしかない」と上司に告げられて、ボーナスをもらう方を選ぶ。

映画は、その決定を覆すべく、土曜と日曜の昼間と日曜の夜にサンドラが10人ほどの同僚に交渉に出かけるだけの話だ。最初は、マリオン・コティヤール演じるサンドラは美人だし、優しい旦那も2人も可愛い子供もいるし、今回はダルデンヌ兄弟作品にしてはちょっと甘いかなと思った。

ところが、彼女が会いに行く同僚たちへの交渉を始めると、見ていていたたまれなくなる。戸も開けてもくれない女性もいれば、いきなり「すまなかった」と泣き出す男性もいる。夫婦の喧嘩が始まったり、親子の殴り合いまで引き起こしたりする。

同僚たちにとっては、わずか千ユーロ(=14万円ほど)のボーナスは極めて重要であり、それを諦めさせようという説得にサンドラ自身が倒れそうになる。どの家族もわずかの金に困っていて、それぞれの都合がある。破産の一歩手前で何とか生き延びている人々の姿が浮かび上がる。

それぞれの説得のシーンの多くは、ワンシーン、ワンカット。登場人物たちの呼吸や心の揺れが正面から伝わってくる。サンドラがバスや車で同僚を訪ねるだけの話なのに、わずかなパイを取り合う資本主義の生の姿が、忽然と現れる。

全体が即興のような、実に簡単な映画でこんな感動を起こすなんてと思ったが、プレス資料を見ると、マリオン・コティヤールたちとのリハーサルに一ヶ月かけたと書かれていた。その前にダルデンヌ兄弟はロケ地で二カ月準備をしたという。

あの自然そのもののような展開は、実は入念に準備されたものとわかって、また愕然とした。それにしても『エディット・ピアフ』と違って今回のコティヤールは、ほぼノーメークで普通の地方都市のおばさんを演じる。よくアカデミー賞の女優賞候補になったものだ。彼女のアメリカでの人気の高さが伺える。

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